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一の富 並木拍子郎種取帳
いちのとみ
なみきひょうしろう
たねとりちょう
2001年 角川春樹事務所
1800円(税別)
ISBN4-89456-925-6
収録作=「阿吽」あうん/「出合茶屋」であいぢゃや/「烏金」からすがね/「急用札の男」きゅうようふだのおとこ/「一の富」いちのとみ
八丁堀同心の次男で歌舞伎の作者見習いとなった並木拍子郎と、その師匠、人気狂言作者・並木五瓶のコンビが、お江戸の町の噂や怪事件に挑む捕物帳スタイルの短編連作。ひょんなことから知ってしまった男と女の不義密通が事件に発展する「阿吽」、陰間茶屋の並ぶ芳町(よしちょう)の幽霊騒動を描く「出合茶屋」、金貸し老婆の首吊りの謎を追う「烏金」、なぜか芝居小屋から失踪する人間が相次ぐ「急用札の男」、富くじの一番くじと人の幸せとを重ねあわせて描いた「一の富」の5編を収録。桜鯛の鯛尽くし、秋鯖(あきさば)の味噌煮などなど、料理屋の娘・おあさが五瓶一家のために腕をふるい、四季折々の料理を披露する。
キャラクターガイド
並木拍子郎(筧兵四郎) なみきひょうしろう(かけいひょうしろう)
筧兵四郎という名の八丁堀同心の次男でありながら、狂言作者・並木五瓶に弟子入り。芝居のネタになりそうな町の噂を聞き込んでは、師匠のもとに報告にやって来る。
並木五瓶 なみきごへえ
大坂から江戸に移り住んで、多くの芝居をヒットさせた狂言作者。上方者らしく口数が多く、無類の甘いもの好き。何かにつけ、上方と江戸を比較する癖がある。
小でん こでん
五瓶が上方から呼び寄せた女房。薬店を営んで家計を助けるほか、ふくよかな体型にふさわしいほがらかな気性で、辛気臭いところのある五瓶をカバー。
おあさ
芝居町の料理茶屋「和泉屋」の娘。板前顔負けの料理上手。言葉遣いも荒っぽいバラガキ娘ながら、五瓶の家で出会った拍子郎に思いを寄せるようになる。
筧惣一郎 かけいそういちろう
拍子郎の兄。北町奉行所の同心で、定町廻りの役目に就く。家を出て芝居の世界に飛び込んでしまった弟の身を、妻・志津ゑとともに案じている。
書評ピックアップ
時は文化年間。寛政・天保両度の「失敗した構造改革」にはさまれた呑気な時代である。「世界」などという身も蓋もないものと向き合わずに済み、悪いやつはいても壊れた人間はいない。当時の芝居町や芝居小屋の世界を、専門的な知識で造型しながら、時代小説のそういった救い、というか味わいを、平易な文体で描き出す松井今朝子の手腕は、『東洲しゃらくさし』『仲蔵狂乱』以来すでに定評がある。(関川夏央氏評・読売新聞・2001年6月24日付より)