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奴の小万と呼ばれた女
やっこのこまんと
よばれたおんな
2000年講談社
1700円(税別)
ISBN4-06-210013-4
「奴の小万(やっこのこまん)」の名で芝居の題材にもなり、大坂中の評判を呼んだ型破りな女の半生。大坂屈指の商家「木津屋」の娘・お雪は、色白な美少女ながら、六尺に迫る身の丈だけではなく、すべてが世間の規格をはずれていた。女だてらにスリを退治した口縄坂(くちなざか)の事件。年頃となり縁談をすすめる周囲の思惑に抗い、顔に炭を塗って町を歩くお雪。愛しい男を救うため、白無垢姿で大立ち回りを演じた農人橋(のうにんばし)の出入り……
その心にあるのは、「せっかくこの世に生まれたからには、くわっと熱くなる思いがしてみたい」との思いだった。兄の死により店を継ぐ身となるが、まっとうな世間は、やはりお雪の前に立ちはだかる。身に宿した新たな命を前に、お雪は、一つの決断をするのだった。
キャラクターガイド
お雪 おゆき
炭と薬を商う木津屋の娘。虚弱でおとなしい兄とは対照的に奔放に育ち、さまざまな事件を巻き起こす。のちに「三好正慶尼(みよししょうけいに)」を名乗る。
お万 おまん
木津屋の女主人で、お雪の祖母。女手一つで暖簾を守り、孫たちを幼いころより厳しく躾けてきた気丈の人。が、思惑通りに動かぬお雪には、生涯手を焼くことに。
庄七 しょうしち
お雪が柔の指南所で出会った沖仲仕の男。侠客を気取るこの若者の強さと子供っぽい笑顔に、反発を覚えながらも、お雪はしだいに惹かれていくが……。
根津四郎右衛門 ねづしろえもん
「黒舟の親仁(おやじ)」とも呼ばれる庄七の恩人。中之島の蔵屋敷に出入りする蔵仲仕の頭で、侠気でその名を知られた男。お雪と庄七の仲を見守る。
棚倉志摩介 たなくらしまのすけ
御所勤め時代に、お雪が結ばれる。京の公家に仕える侍だったが、やがて職を捨て、大坂に帰ったお雪のもとを頼ってくる。理想と屈折を抱えた男。
坪井屋吉右衛門 つぼいやきちえもん
堀江の造り酒屋の若主人。木津屋を継いだお雪の友人に。のちに、「木村蒹葭堂(きむらけんかどう)」の名で、博物学の先駆者として知られるようになる。
柳里恭 りゅうりきょう
吉右衛門の紹介で、お雪が絵を習うようになった先生。大和郡山藩で二千五百石を与えられた大身の武士だが、諸芸百般に通じた風流人で、お雪にも大きな影響を与える。
書評ピックアップ
このヒロインは自由に生きることを欲しただけなのだが、そのために時代からどんどんはみ出していく。著者は奴の小万に関するさまざまな風説、俗説を巧みに整理し、幾つもの躍動感あふれるエピソードを積み重ね、格闘技に秀でて、教養もあり、さらに自由な恋を欲するヒロインを現代に蘇らせるのである。それがすこぶる痛快だ。元気が出てくる本だ。(北上次郎氏評・朝日新聞・2000年6月11日付朝刊より)
女は結婚して子を産むのが天命と定める“まっとう”な世間と生涯闘い続けた女の一生を、キリリと凛々しい文章で描き、お雪の伸びやかな言動に破顔一笑するやら、胸を熱くするやら、読む者の情感に強く訴えかける小説なのだ。こんな破天荒な女性が実在の人物だとは!掘り起こして日を当てた作者の、これはお手柄というものである。(豊崎由美氏評・クロワッサン・2000年6月10日号より)