トップページ > おどる夫婦

2025年04月16日

おどる夫婦

「虎に翼」のヒロインを演じた伊藤沙莉との結婚で話題を呼んだ蓬莱竜太の最新作「おどる夫婦」は今様の夫婦関係をモチーフにして何だか意味深に受け取らせるかのような、つまりは非常に私小説的な雰囲気を漂わせる作品といえる。もっとも私小説的といっても、一人称モノローグが主人公1人や夫婦2人だけでなく何人もの視点で発せられるのだけれど、夫婦の10年間が社会事象と合わせてクロニクルに展開するなかで、各自が過去に立ち戻って己れの古傷にこだわり続け、結局はそれぞれ自分のことしか考えられない人間同士の頼りない関係性が自ずと見えてくるあたりに、いかにも日本の現代社会を映しだしたといった感じだろうか。取り立てて恋愛感情を持つこともなく結婚した妻(長澤まさみ)は夫の甲斐性がないことに苛立ちながら、時に心の深い傷を見せられては手を伸ばさずにいられない。片や物書き業をして自分が本当に書くべき何かを見つけられずに、ついその時々の状況に流され引きずられてしまう夫(森山未來)。幼い頃に脳を患って自閉症的にならざるを得ない妻の弟(松島聡)と、彼に脳障害を負わせた自責の念から周囲に異様なまでの警戒心を抱く母親(伊藤蘭)と、こう書けばずいぶん辛気くさいドラマのように聞こえるが、彼らと彼らを取り巻く人間たちのやりとりは存外軽妙なのが現代風だし、またキャスティングが良かったせいか出演者全員がチャーミングでそれぞれの存在に説得力が感じられるため、脚本自体はエンディングのツメが甘すぎる難点を指摘しておきたいものの、舞台はそれなりに面白く観られたのである。中でも皆川猿時のトリックスターぶりは秀逸だったし、高速回転舞台を使って出演者にそこを歩かせることで流動的な舞台空間を作りだしたのが都会の慌ただしさや時の流れを象徴する意味でも効果的に見えた。


コメントしてください




ログイン情報を記憶しますか?


確認ボタンをクリックして、コメントの内容をご確認の上、投稿をお願いします。


【迷惑コメントについて】
・他サイトへ誘導するためのリンク、存在しないメールアドレス、 フリーメールアドレス、不適切なURL、不適切な言葉が記述されていると コメントが表示されず自動削除される可能性があります。