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2024年12月03日

朧の森に棲む鬼 歌舞伎NEXT

劇団☆新感線の公演に松本幸四郎(当時は市川染五郎)が参加した恰好で初演されたこの作品を、今回は幸四郎と尾上松也のダブル主演で、しかも歌舞伎味を濃くした上演とあって興味が持たれたが、ワタシが観た昨日の舞台では松也が堂々と主役を張って、幸四郎がいわゆる半道敵(はんどうがたき)のコミカルな役柄を嬉しそうに演じていた。ストーリーはあきらかに「マクベス」や「リチャード3世」を下敷きにしながらも、主人公はおよそ王侯貴族とは無縁な無頼漢のライで、彼が名前通りのLie=ウソを巧みにつきまくって人びとを騙し陥れ、さらには次々と殺めて、ついには王座に上り詰めるという典型的なピカレスク・ロマンである。一方では歌舞伎らしく「頼光(らいこう)四天王の世界」を借りているから、幸四郎が演じた半道敵は碓井貞光を匂わす役名だ。渡辺綱は何と女性の武人ツナとして登場し、女方の中村時蔵が凛々しさと妖艶さの綯い交ぜで好演。大江山の酒呑童子らしき人物シュテンは現染五郎が美々しい姿で見せ、闇のボス役を市川猿弥がそつなく演じ、天皇らしき人物を坂東彌十郎がすっとぼけた味わいで魅せる一方、その妻シキブは坂東新悟が現代ギャル風に演じて笑いを誘うなど、いずれも役を巧く自分のものにしていたが、中でもライの弟分キンタ役の尾上右近は小柄なカラダをみごとに活かしきったハマリ役といえそうだ。主役のライを松也は前半まだ手探り状態で演じているようなまだるっこしさが感じられたものの、それは役の人物そのものが手探り状態で世渡りを始める段階だったからなのかもしれず、後半になると俄然ピカレスクの魅力が顕在化して、「この世のどこに正義なんかあるんだ!」と嘯くセリフまでが鋭く今日性を衝いたように感じさせるほど活き活きと演じており、ラスト近くの「ぶっ返り」シーンではその姿の大きさや凄味のある面つきが紛れもなく座頭役者のそれだった。その後も師走になんと本水!!を使った立ち回りで大奮闘、宙乗りで姿を消すというサービス満点の演出だから満杯の客席が大いに沸き立ったものだ。竹本や下座の入った歌舞伎仕立ての中で、民謡歌手を起用した妙に明るく且つ切ないBGMが意外なほどぴったりハマる舞台で、久々にいのうえ歌舞伎を堪能した気分に。ただちょっと気になったのは「メタルマクベス」当時と比べて松也がややポッチャリ体型になったことで、もっとカラダを絞れば本水の立ち回りもキレがもっと良くなるだろう。


コメント (3)


朧の森、来週観に行きます。楽しみになりました!松也くんがメタマク時よりぽっちゃりしているとの事、心配だー(-_-;)

投稿者 マロン : 2024年12月05日 11:35

私も同じ日に観ましたが、初見で設定も人間関係も分からず、3階からは舞台が暗く下手は見えず、表情も分からず、前半は諦め気味でしたが、後半は入り込めて面白かったです。この劇評で、やっと腑に落ちました。目の前を宙乗りの松也が飛んで行きましたが、少し体型を引き締めて欲しいですね。

投稿者 ウサコの母 : 2024年12月05日 21:42

私は、幸四郎さんのライを見ました
松也のライも買ってるので、楽しみです
みなさん絶賛の時蔵さん、すっごくよかったです
妹背山のみわは、時蔵さんの「古風な美しさ」に似合ってるかもしれないけど、行動力ある強いツナが断然いいです
下からのし上がっていく役なので、ライのお色直しが一番多いのは当然かと思いますが、最初に登場するデニムに太い縄をベルト代わりにしてる姿から、場面場面で、次第に衣装がきらびやかに変わっていくのが、面白かったです
究極、将軍になりあがっていき、大君たちと同じように、チュールの打掛を着るまでになる
あれ、打掛ですよね、大君の部屋の衣桁に掛けてあったし
でも、あんな薄物の打掛もあるんですね。透明のスパンコールが散りばめられていて、きらきらと美しい
そういえば、中国の宮廷ドラマで見たかもしれないです
宮廷イコール裾を引きずる衣装という考え方は、いつから生まれたのでしょう
ちょっと関心あります
あと、マントみたいなのに、フードが付いてるのと付いてないのって、なんか人物の性格とかで違いがあるのかな
ええと、それから、帯締めの代わりなのか黒いベルトを着けてたのも面白かった

投稿者 せろり : 2024年12月12日 10:13

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