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2024年09月26日

碧い眼の太郎冠者 ドナルド・キーン記念「狂言会」

昨夜拝見したドナルド・キーン記念財団主催の「狂言会」は、日本文化の優れた紹介者であったドナルド・キーン氏が谷崎潤一郎や三島由紀夫と出会って今年でちょうど70年を迎え、キーン氏と谷崎が共に茂山流の狂言を習って師も同じくしていたことや、三島が自作「近代能楽集」のNY上演を期して新たに能狂言「附子」の翻案劇を現地で構想し、舞台設定等のメモを書き残していたことから企画された催しだったようである。そこでキーン氏の弟子であるポートランド州立大学コミンズ名誉教授の教え子たちがまずは英語劇の「附子」を上演。日本では教科書にも載るほど知られた狂言だけに英語バージョンでも話がよく呑み込めて面白く拝見できたし、太郎冠者を演じた若い女性、次郎冠者の青年ともに学部の学生さんとは思えないほど堂々と落ち着いた演技で笑いを取り、今どきの日本人にはできない狂言古来の所作もしっかり身につけて舞台を踏んでいた。狂言小舞を演じたもう一人の女性も含め、コミンズ先生はよくぞ学生の中からこんなチャーミングな人材を見つけてらっしゃるものだと毎度のことながら感心して、日本の学校ではこうしたフィジカルな指導の下に伝統文化を教えられる先生がまずいらっしゃらないであろうことを残念に思わずにはいられなかった。
ともあれポートランドの学生たちによる英語版「附子」が今公演の前座とすればメインは三島版「附子」で、三島は主人をNYでアンティーク店を経営するロシア系の老人と設定し、原作が砂糖である附子をキャビアに変えて、それを入れた壺はアイスボックスに見立てたところがミソだろう。三島の構想メモを下敷きに台本と演出を手がけた三世茂山千之丞は太郎冠者にも扮しており、附子が入った壺のフタを開けると中からベルーガの缶みたいな円盤と大きなレモンの櫛切りを模した作り物が出てきて、キャビアを食べる際にその櫛切りレモンをキュッキュッと絞りかける演技で笑わせた。衣裳は三島の設定よりも従来の狂言衣裳に寄っているが、それはそれで能舞台だと違和感なく観られることを優先したのだろう。英語版の「附子」と日本語で演じられる三島版「附子」が相互に巧く補完作用することで意外なほど面白く観られる公演でした(^_^)


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