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2024年03月02日

はえぎわ×彩の国さいたま芸術劇場「マクベス」

昨夜はさいたま芸術劇場で劇団「はえぎわ」主宰のノゾエ征爾台本・演出の「マクベス」を意外な面白さで観ることができた。まず意表をつかれたのは、まるで不条理演劇のように椅子が整然とびっしり並べられたフラットな舞台で、椅子は障害物になりつつ劇が進行するにつれて倒されたり積み重ねられたりして装置の役割を果たすのだった。もっと驚いていいのはシェイクスピア原作の「マクベス」を途中休憩なしの1時間40分 = 100分で上演するという試みだが、原作の骨子となるドラマの要素やセリフは過不足なく盛り込まれている。そればかりか「マクベス」の新たな見方、つまりはこの劇がマクベスという一個人のあたかも成長譚であるかのような趣をも提示し得たのは主役の好演によるところも非常に大きいだろう。タイトルロールの内田健司が演じるマクベスは従来の多くの主演者とは異なって、登場した時点からある程度できあがった人物では決してない。むしろ自らの野心に見合うだけの自信が持てず強い女たちに翻弄、叱咤されてオタオタする若者のイメージで、それがこの劇を極めて現代的なドラマに見せ、彼を叱咤するマクベス夫人を演じた川上友里のド迫力演技もまた現代ならではのリアリティを感じさせるものだった。自らの手を下して野心を遂げたマクベスが自信を深めて非道な独裁者となっていく様子は現代の世界情勢にも重ねられており、そんな彼が最期の時を迎えて「明日へ、明日へ、また明日へ、とぼとぼと小刻みにその日その日の歩みを進め、歴史の記述の最後の一言に辿り着く……人生はたかが歩く影、哀れな役者だ……」と虚無的に呟くオトナに成長した姿をたった1時間半で観られると考えたら、これはもう画期的な古典劇の再生ともいえそうだ。ただ、すべての古典劇やシェイクスピア劇がこうしたコンパクト化に向くとは思えず、改めて「マクベス」は人間一生のドラマチックな要素がコンパクトにぎっしりと詰まった、ハイスピーディな現代に向く作品だという気がしたのである。残念ながら上演は明日までなので、見逃した方のために是非とも再演を望みたいところ。


コメント (2)


このマクベスは観たかったのですが、どうしても予定が合わず観劇できません。残念!舞台演出も興味の一つでした。椅子を使ったのですね。蜷川マクベスのように、これでもか、という大掛かりなもの、また野村萬斎のマクベスのように飾りはすっきり取り除いたもの、演出も様々で観客に与える効果も違った味わいになるので、幕が上がる直前はドキドキし、その緊張感が好きです。再演を望みます。

投稿者 マロン : 2024年03月03日 07:44

私は東京芸術劇場で観ました。確かに重厚長大なNINAGAWAマクベスなどに比べればコンパクトで見やすく、現代人向けなのかもしれません…。これから吉田鋼太郎演出のハムレットが予定されていて楽しみですね。

投稿者 エグチ : 2024年03月07日 12:56

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