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2023年12月08日
東京ローズ
昨夜新国立劇場で観た「東京ローズ」はロンドンのウエストエンドではなくフリンジ(日本の小劇場といった感じ)で上演されていたミュージカルだが、そもそも英国でこれを題材にしたミュージカルが生まれたのも当初フシギだったのは、英国はストーリーの舞台となる当事国では全くないからだった。第2次大戦中に「東京ローズ」と呼ばれた日系アメリカ人の女性がいたのは知っていたが、実際はどんな女性でどんな活動をし、戦後どうなったのかは全く知らなかっただけに、まずは今回その話がミュージカル化されたことで、やはり日本人としては当然知っておくべき人物だとわかっただけでも観た甲斐が十分あった。何しろ米国の名門大学で医学部に進学が決まりながら、たまたま日本の病身の叔母を見舞いに訪れた滞在中に太平洋戦争が勃発し、役所の事務手続き等の関係で帰国できず、英語ができることでいつの間にか日本軍に利用される形になりつつも、彼女としては米国市民の意識を捨てず米国に対する忠誠心を最後まで持ち続けていた。にもかかわらず戦後は米国で反逆罪に処せられるという大変に数奇で皮肉で気の毒な運命を辿り、国家の都合に翻弄されて自身の行き場を喪ってしまうその姿は現代の移民難民の姿とも重なって見え、決して遠い昔の出来事ではなくて、現代人に刺さる問題として立ち上がってくるのが面白く、なるほど現在移民問題で非常に苦労している英国でこの作品が生まれたのもむべなるかなと思わせたのである。出演者は全員オーディションで選ばれた6人の女優で、知らなかった人たちが多いのだけれ、それぞれ歌唱力と演技の水準が高く、6人が主人公の女性を場面ごとに割り振って演じながら、他の役も、多くは男の役を入れ代わり立ち替わり演じるという奮闘ぶりで少しも舞台を飽きさせなかったし、時にシャウトが混じる6人の歌声もそれぞれに聴きごたえがあった。