トップページ > 歌舞伎座12月公演第3部

2023年12月05日

歌舞伎座12月公演第3部

昨日は銀座で所用があったため、そのあと久々に演目立てと配役に興味がそそられた歌舞伎座の第3部を観劇した次第。一番目は松緑と勘九郎競演の長唄舞踊「二人猩々」で、それぞれが格調の高い雰囲気と洒脱味を交互に出しながら前半を舞い、後半の乱れ足と流れ足の件りは無難に息が合って面白く見せた。
二番目は眼目の玉三郎演出・七之助主演の「天守物語」。歌右衛門家がいわゆる「三姫」を重習い的に伝承したように、玉三郎は桜姫とこれの富姫を伝承する権利と義務がありそうだが、今や両役を受け継げそうなのもやはり七之助しかいないように思われる。今回の七之助は玉三郎のそれを彷彿とさせるようなところが随所に見受けられるも、両者の根本的な芸風の違いは如実に感じられ、七之助のほうがわりあい理に勝って現実味のある芸風だけに、鏡花の夢幻的な味わいにはいささか乏しい憾みがありそうだ。もっとも七之助は姫路公演の再演とはいえセリフをしっかり自分のものにしているし、玉三郎演出もこの作品を鏡花風のリリカルな雰囲気ゼリフだけではない、しっかりしたセリフドラマとして成り立たせていて、それは鏡花のアンチヒューマン的なセリフが現代人の胸にきっと刺さるはずだという確信の下でなされたものかと思われる。ただし洋楽風のBGMや説明的な効果音が前半でベタ付けだったのは戴けず、せっかくのセリフ劇の妙味を削ぐような気もしたが、その前半では玉三郎がいわゆる「ごちそう」で自ら範を示した形の亀姫と富姫のやりとりが非常に面白く、富姫の妹分を70代で違和感なくコケティッシュに演じられるのはやはりこの人ならではだろう。後半に登場する富姫の相手役となる図書之助は虎之介が抜擢に応え気張って演じており、セリフがやや一本調子で歌舞伎座の舞台で聴くと発声にも違和感が多少あるとはいえ、神妙に舞台を務めて健闘を示していたのは可としたいところだ。勘九郎が舌長姥と近江之丞の二役で付き合っているが、姥役は愛嬌で何とかなっても、近江之丞はもっと長老級の役者が務めてこそ幕が閉められるのではなかろうか。大昔に島田正吾で観た舞台がやはり忘れがたいものだった。


コメントしてください




ログイン情報を記憶しますか?


確認ボタンをクリックして、コメントの内容をご確認の上、投稿をお願いします。


【迷惑コメントについて】
・他サイトへ誘導するためのリンク、存在しないメールアドレス、 フリーメールアドレス、不適切なURL、不適切な言葉が記述されていると コメントが表示されず自動削除される可能性があります。