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2023年09月22日
豚肉と里芋のトマト煮
先日のQPで見た料理。豚細切れ肉に塩砂糖醤油を揉み込んでフライパンに敷き、皮を剥いて厚めの輪切りにした里芋とニンニクの薄切り、ミディトマトの輪切りを載せて水と白ワインを回しかけて12分ほど蒸し煮しただけの手間要らずな一品。
今週はよく出かけたせいで国内外のニュースに触れられなかったが、やはり市川猿翁の訃報には、これまた一つの時代が終わりを告げたという感慨に浸らざるを得なかった。身内の不祥事がなければ現代歌舞伎最大功労者としてもっと顕彰的に大きく報じられたはずで、意外なほど淋しい最期だったように思われてならない。わたしは個人的接点がほとんどなかったものの、父が大ファンだった関係でまだ若い30代初めの頃からの舞台もよく観せられて「小鍛冶」や「黒塚」は非常に印象深かったたし、楽屋を覗いたこともあったし、また実家「祇園川上」を長らくご愛顧戴いて段四郎丈と共に夜中の2時3時まで芝居の話を熱心にされていたという話も聞いている。ただ私が武智鉄二師について中村扇雀(坂田藤十郎)主宰の「近松座」を手伝うようになってからは、「川上」にピタリといらっしゃらなくなったという愚痴も聞かされていた。ちょうど松竹に在籍していた当時に明治座出演が始まって、それから芸風がかなり大衆向きに変わったのを結構批判的に見ていた人が松竹内部でも最初はかなりあったのだけれど、ご本人はそれを確信犯的にやり遂げる恰好で数々の復活狂言を手がけ、新作にも興味を示されており、「ヤマトタケル」の台本が持ち込まれた際は当時企画芸文室勤務だった私も第一稿に目を通してウーンと頭を抱えてしまったもので、そのままではとても上演できそうになかった作品が新橋演舞場で上演された時は既に松竹を辞しており、一観客として両親と共にその舞台を観て、何とかカタチになってることにえらく感心したのを、もう時効だと思うのでここに書いておく。「ヤマトタケル」に始まる古代シリーズでは「スサノオ」がご本人の孤立感と重なって非常に感動させられたもので、いわゆる猿之助カブキを全面的に肯定はしないまでも、その舞台にある種のプリミティヴな感情を揺さぶられた体験も何度かあったのを想い出す。プロ野球界で野茂がメジャーに行かなかったら今日の大谷はなかったかもしれないように、当時もし彼が思いきって大衆化の路線を切り拓かなかったら、恐らく歌舞伎は古典保存芸能の道まっしぐらで、良くも悪くも現況を留められずに興行材としての価値は低廉化させていただろう。それを思うと二代目市川猿翁は現代の演劇史において必ずや銘記すべき存在だし、晩年がいささか淋しすぎたのを残念に思いつつ、今は謹んで御冥福をお祈りしたい。