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2023年09月13日

ウン十年ぶりの文楽鑑賞

昨夜は国立小劇場でバッタリ会った平松洋子さんから「松井さんは文楽もご覧になるの?」と言われて、ナルホドわたしが「演劇界」誌で文楽の劇評を書いていた当時をご存じの方はもう現在の劇場にはいらっしゃらないのかもね〜 (^_^; と思いながら、それにしても文楽を観なくなって、というか聴かなくなって我ながら久しいものがある!!と改めて思った次第。津と越路、寛治と喜左衛門、勘十郎と玉男が絶頂期で張り合っていた頃は、東京大阪は元より地方公演までオッカケして楽屋にも出入りしていたほどの文楽熱が、紋下が文字さん(住太夫)レベルじゃもう聴く必要ないかもね〜と急冷し、以来、招待券もらってもみんな人にあげちゃうくらいの冷淡さで文楽から遠ざかってしまったのは自分でもふしぎなくらいである。ともあれ今回はまず文春さんのほうからお誘いを戴いて、同社の「オール読物」誌で現在近松門左衛門を主人公にした時代小説を連載しているワタシとしては、無下に断りも出来ずにウン十年ぶりの鑑賞と相成った次第。というわけで、まず出演者の大半が知らない人たちであり、知ってる人でも容貌が激変してるので誰だかすぐにわからないし、語りに合わせて逐次左右の柱に電光字幕が出る仕掛けになってるのもビックリで、いやはや鑑賞する以前につまずくこと多々でした(^^ゞおまけに第三部は「曽根崎心中」という、確かに近松の名作だから文春さんがこれをお誘いになったのは当然でも、文楽では昭和30年に復活上演されて、その脚色もフシ付けも当時の文楽通には評判サクサクだった演目だけに、ゼンゼン期待しなかったのが却ってよかったのか、思いのほか面白く鑑賞できたのは何よりだった。まず端場ともいえる「生玉社前」を語った靖太夫と三味線の勝平はゼンゼン知らない人たちだが、正直いって現行のレベルを不安視していたワタシとしては、いささかほっとして聴けたものである。勝平はワタシがよく知ってた先代の弟子なのだろうが、ピシリと鋭く弾いて、ともすれば声に引きずられ声が裏返りそうになる靖太夫を巧く引き締めて聴かせてくれたように思う。
眼目の「天満屋」を語る錣太夫って一体ダレ?と見たら昔の津太夫門下の津齣太夫で、〽恋風の……という色町の風情を醸しだすマクラがおよそ似合わない語り口の人だけに最初は心配されたが、お初の詰め開き等は息が詰んで上出来の部類だったし、若い頃は愚直な感じの太夫だっただけに、よくぞ精進されたものだと感じ入りもしたのだった。義太夫節は元祖のDNAが後世に長く伝わるせいか、あるいは近代の「浄瑠璃素人講釈」に影響されたせいか、ストイックで愚直なくらいの人のほうが聴衆を感動させる点において大成し、業界ズレした小利口な人には決して向かない芸能だと思うだけに、津齣が同世代の中で抜擢されたのは文楽界の見識がまだ廃れていない証拠なのだろうし、今後ともそうした見識を喪わずにいてほしいものだとつくづく思う。「道行」はエっ?!これって義太夫節なの(?_?)邦楽の声ではあるけど、常磐津とかとの違いがわからなくなってるように聴けるんだけど……と思いながら、まあ、確かにフシ付けもテキストレジーも昔の文楽通が悪くいったのは仕方がない気もしたのだった。とはいえ今後に一番残りやすい演目は案外コレなのかも?と思うのは、文楽を今回初めてご覧になった文春の方がこの作品を非常に面白がってらっしゃったし、片や「寺子屋」みたいな話にはもうちょっと付いていけません!と仰言る文春の方もいて、時代物の上演は今後ますます難しくなりそうな予感がしたからである。まあ、どんな形にせよ文楽が消滅しないに越したことはなさそうで、人形は人間よりも美しく感じられる瞬間が随所にあるのは確かだと、ウン十年ぶりに観た今回改めて再認識したものである。お初を遣った和生は昔から自分を余り目立たせようとせず淡泊に人形を操る人だったが、今回それが却ってお初の人形の強さを引き立てていたし、玉女の頃はでかいカラダがいささか邪魔にもなっていた玉男が徳兵衛を内省的に表現し得た場面はみごとだった。お初が縁の下に隠した徳兵衛と意思の疎通を図る件りは、息の詰んだ錣太夫の語りと相俟って、暗がりの中に人形の表情がハッキリと浮かびあがる瞬間を感じ取れた。それが文楽の醍醐味ともいうべき点で、今後それが完全に喪われてしまうのは余りにも勿体ないように、今や文楽とはほぼ無縁なワタシも思わざるを得ません(-.-;)y-゜゜


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