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2023年02月24日
アンナ・カレーニナ
今日は午後からシアターコクーンでトルストイ原作フィリップ・ブリーン台本・演出/宮沢りえ主演の「アンナ・カレーニナ」を観劇。P・ブリーン演出はドストエフスキーの「罪と罰」でも重厚なロシア文学をアップテンポで軽快に見せられた印象があるが、今回も同様にシーンは原作を比較的忠実に再現しつつも全体のテイストがかなり違ったものになっていて、現代の女性なら原作を読むよりこの芝居を観たほうが共感しそうな気がしないでもなかった。というのも台本がかなり意識的にフェミニズムの視点を取り入れており、それもいわゆるジェンダー的な切り口ではなく、女が子供を産むことや持つことで様々なものを喪い奪われる苦痛といった、ふつうはなかなか踏み込めないところまでシビアに掘り下げているのだ。従って原作にはない男女や女同士の相当突っ込んだ会話劇にもなっていて、男女の場合はそれをシェイクスピア劇によくあるアサイド(傍白)で補ったりしていささか騒々しくコミカルに感じさせる。一方でチエーホフ劇を彷彿とさせるロシアらしいスタティックなシーンも用意されており、急速な発達を遂げる文明化の中で都市部と田園の生活を鮮明に対比させている点もまた極めて今日的な視点といえそうだ。演出は「罪と罰」同様に今回も俳優陣に過酷な体力勝負を要求して舞台道具の転換まで役者に委ねる恰好だが、全体を子供部屋に見立てて玩具を散らした舞台美術は衣裳の色彩と相俟って非常に美しく、ヴァイオリン、チェロ、ピアノ等の生演奏で効果音も兼ねた洋楽下座ともいうべきBGMもちょっと過剰なきらいはあるけれど、舞台を絶えず緊張に包んで4時間弱の長丁場を少しもダレずに見せたのは確かである。初日のせいもあってか俳優陣が皆テンション高めの熱演だったのもダレない理由で、中でもタイトルロールの宮沢りえは姿かたちもみごとにロシアの貴婦人に成りきって且つ圧巻の熱演だったことが特筆される。