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2015年11月21日
パリ市立劇場来日公演「犀」
さいたま芸術劇場が招聘したパリ市立劇場公演E.イヨネスコ作の「犀」は、いわゆる不条理劇の中でも寓意性が非常にわかりやすいドラマとして、前に文学座の舞台でも面白く観たのだが、今回本場フランスの劇団による上演は、余りにもタイムリーというのも何だが、この時期ならでは緊迫感に溢れた名舞台といえそうだ。幕開きから不穏な空気を醸しだす音響。シャープな可動装置と巧みな照明。俳優それぞれのクリアな演技。世界各国での上演を重ねて既にパーフェクトにまで練りあげられた演出は、字幕を頼らざるを得ない外国語の上演であるにもかかわらず、約二時間を一気に運んでとても短く感じさせた。それにしてもこの芝居はもともと作者が若い頃に遭遇した第二次大戦下における欧州全土を覆うファシズムの流行を、周りの人間が次々と動物のサイと化す現象に喩えたものなのだが、今日に観るとサイが疾走して街中を破壊するのに人びとが怯えるシーンはまるでテロに遭遇した人びとの恐怖にも見えてしまうし、セリフを一つ一つ聴いていても、いつの時代も絶えず人種差別の問題やら文明の破壊者の出現と向き合わざるを得ないという、欧州の抱える普遍的な問題が通底しているように感じられて、
この時期だけに何かと考えさせられることの多い観劇でした。