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2015年08月01日
三國妖狐譚
歌舞伎の中村京蔵とスーパーパントマイムシアター「想起」とのコラボは2013年の『滝夜叉姫』以来だが、前回の劇場スペース・ゼロに比べて今回の大和田伝承ホールは遙かに求心力のある空間だったし、またスタッフとして常磐津界の才人鈴木英一が加入したのも大きいのだろう、前回よりもかなり見応えのあるエンターテインメントパフォーマンスに仕上がっていた。
ストーリーの大枠は歌舞伎でよく知られた玉藻前伝説に則り、金毛九尾の狐が稀代の妖婦として古代インド、中国、江戸時代の日本に時空を超えて出現し、その妖婦に恋慕して執着した男もまた時空を超えて追い続けるというもの。殺生石から妖婦が出現するオープニングシーンでは京蔵の異形ぶりばかりが際立つが、江戸の芸者妲己の小万に扮したあたりからは女形としての美しさも十分に発揮している。
妲己の小万という役名でもわかる通り、日本のパートは鶴屋南北の『盟三五大切』をベースにして、これに河竹派の「縮屋新助」や「籠釣瓶」の縁切りを織り込んだ設定だが、縁切りのシーンを「関の扉」風にセリフを常磐津で語らせ、それに合わせて「想起」のパフォーマーらがロボット式の人形振りで演じるのが非常に面白く、このコラボならではの成果ともいえる。
もっとも、そもそもがパントマイム集団の「想起」のメンバーにセリフをいわせるのはやはり苦しいので、他のシーンでもなるべく身体表現だけで進行してわからせる工夫が欲しかったところだ。京蔵もまた中国の妲己では説明ゼリフが多すぎて、折角のいいセリフまでが興を削がれる結果となってしまっている。中国もインドと同様ストーリー自体はわかりやすいので、日本のパートになるまでは極力セリフ省いたほうが時空を超えた男女の愛のテーマがより活きてくるように思う。
ともあれインド中国日本の三国にわたって跳梁する妖婦を演じる京蔵はこの酷暑にあって十着以上の衣裳替えをし、インドでは宙乗りを、中国では京劇風の立ち回りを見せるという大奮闘。常磐津のみならず女義さんによる太棹三味線の出囃子まである豪華な生演奏を含めて仕込みの大変さが思いやられるが、こうしたいわば本人やりたい放題のワンマンショーに「想起」のメンバーを始め大勢のスタッフを付き合わせた力業は大いに認められるべきだろう。一方で「想起」のメンバーも妖婦を追い続ける男を演じた小鉄や主宰者の江ノ上洋一を始め、各人がパントマイム技術に裏打ちされた豊かな表現力を存分に披露し得た点で、今回は双方共に少なからず収穫のあったコラボレーションではなかろうか。