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2015年05月07日
明治座五月花形歌舞伎
連休明けの今日は外出中に案のじょう色んな連絡が押し寄せていたが、それを承知の上で明治座の招待に応じたのは、久々にコレは見たい!と唸らせる好企画、猿之助・中車共演の「男の花道」が昼の部に上演されているためであった。
そもそもは三代目中村歌右衛門という名優の眼病を土生玄碩という名医が治したエピソードを綴った講談のネタが、戦前に長谷川一夫・古川ロッパ共演で映画化されたことに始まり、戦後は長谷川自身がその舞台化を成功させて、商業演劇の王道ともいうべき作品に仕立て上げたものである。ちょっと「走れメロス」に感じ似てるかも?というような男同士の信頼関係をテーマにした作品で、主人公の職業がら劇中劇を非常に巧く活用した展開が芝居好きのハートを大いにくすぐるところがある。とはいえ近年は役者の気質や観客層の変化と相俟って、ここまでベタな商業演劇が登場する機会自体が少なくなったし、実際にコレを演じて往年の長谷川一夫やその薫陶を受けた坂田藤十郎のような厚ぼったい雰囲気を出せる役者がなかなか見当たらなかっただけに、今回の配役は現時点でのベストというべきかもしれない。ラブリンこと愛之助が敵役で付き合っているのもご愛敬である。
現・猿之助はやはり女形を本領とする役者であり、ひょっとしたら亡き雀右衛門や現・玉三郎のような真女形の妖しい魅力を備えて彼らの衣鉢を継ぐのは案外この人なのかも?と私は見ているくらいなのだけれど、「ル・テアトル銀座」でこの作品を演じた福助よりもはるかに真女形に近い演じ方をしていることには賛否もあろうが、以前に比べて容姿艶麗となり役者ぶりの大きさも加わって、期待に応えた好演といえそうだ。もともとこの人はいわゆる「書き物」が向いた資質の持ち主だから、時にこうしたベタな商業演劇の王道を演じておいたほうが、妙に理知的で冷めた資質をカバーして役者としての花をいっそう大きく膨らませることにもつながるのではないか。片や土生元碩を演じた中車は歴代の元碩先生に比べると若いため、医者としての野心を感じさせる点が面白く、いっそそれをもっと意識的に演じれば、また違った元碩像が生み出せたのではなかろうかと思う。もう少しナチュラルな演じ方もやろうと思えば出来ない人ではないはずだし、そうすれば芝居がもっとリアルに見えたのだろうが、今回は芝居全体が長谷川一夫が切り拓いた路線でなく歌舞伎寄りの演出や演技に傾いており、今やかつての商業演劇でさえ「古典化」に向かう時代なのか!という印象を強く受けたものである。
コメント (2)
私も4代目猿之助の女形の資質を買って居ます。亀治郎時代の金閣寺の雪姫を京屋さんの演じ方でされたのを見た時に、このまま亀治郎で正統な女形に育って欲しいと思いました。
事情もあり、猿之助を継がれ最近は立ち役が増えましたが、講演などを聞きますと本当に理知的なんですが、話の持って行き方が面白い人で頭の良さを感じますが、女形を演じる時には独特の色気を持って要る人だと思います。御園座で「男の花道」を数年前に観ましたが、多分その頃よりも円熟してきてるんでしょうね。
投稿者 お : 2015年05月08日 13:54
「男の花道」観て来ました。映画・舞台でも未見でしたが、とても面白かったです。こってりとした妖艶な役柄が猿之助にピッタリで、先月、名古屋で演じた「雪乃丞変化」もぜひ観たいです。こうした長谷川一夫路線で猿之助にピッタリの演目がまだまだありそうですし、「ワンピース」って何だか、全く分からない年代としては、この路線と伝統歌舞伎にも力を入れて欲しいものです。
投稿者 ウサコの母 : 2015年05月08日 23:02