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2015年03月18日
木ノ下歌舞伎「黒塚」
駒場のアゴラ劇場で木ノ下歌舞伎「黒塚」を現代人形劇センターの塚田さんとご一緒して、「いやー久々に見応えのある小劇場の舞台を見ましたよね」と互いに言い合ったものである。とにかく幕開きからただならぬテンションでスタートし、幕切れまで求心力を喪わずに濃密なパフォーマンスを繰り広げた舞台で、この点は偏に役者個々の力量に拠るところ大であろう。出演者全員この人達はふだん一体どんな芝居をしているのか、またどういうメソッドを経てこうした身体能力の高い演技術を獲得したのか訊いてみたかったくらい、発声や身振りも達者で、それぞれが個性に応じた存在感を舞台上できちんと発揮していた。ことに鬼女役の武谷公雄は若き平幹二朗を彷彿とさせる風貌や大きさと芸の濃さを感じさせて、鬼女が本性を顕す件りの迫力は凄まじく、イマドキの薄い若手俳優とは一線を画するものがあったように思う。
歌舞伎の「黒塚」をストーリーは元よりセリフや長唄を含めてかなり踏襲しており、演技術もそれに準じる部分がある一方で、現代劇風に仕立てたり、洋楽を取り入れたりしている部分がさほど違和感なく織り交ぜられているのも面白く、「花組芝居」などとはまた全く違った歌舞伎の消化の仕方が見られるように思えた。簡単に説明しづらいが、要するに歌舞伎のストーリーの多くはクライマックスで人間の極限状況を描くことが多いわけなのだけれど、その極限状況に至るまでの過程や心理状態などを丹念にリアルに追及したらどうなるかというような一種の実験演劇でもあるような感じで、それゆえ今回の「黒塚」では「奥州安達原」に関連する伝説を劇中に取り込んで鬼女が鬼女に至った背景までストーリーに復元させており、そのことで却ってストーリーの普遍性が損なわれる点も否めないが、そうした緻密なドラマ性の詰め方で極限のリアルを追及しようとするのが木ノ下歌舞伎の真髄であるのかもしれない。ともあれ今回の「黒塚」では結果的にそれがみごとに達成されて、小劇場の範囲とはいえ部分的には本家の歌舞伎よりも迫力ある舞台を生みだしていたのは間違いない。興味のある方には是非ともオススメしたい公演である。
コメント (2)
松井さんの文章を読んですごく興味がわきました。来週地元で公演があるので行くことにしました。「祇園川上」の加藤さんが出演する「千年の一滴」も拝見しました。非常に興味深い、映像の素晴らしい作品でした。見ると自分でだしが引きたくなりますね(^_^)
投稿者 ちえこ : 2015年03月19日 13:29
コメントは2回目です。
松井さんの劇評をいつも参考にさせて頂いています。
今回もコメントに惹かれ、21日昼見てきました。私(中年男)はもっぱらお能を見てきたので、新鮮な思いでストーリーを追いつつ、松井さんのコメントされていた「身体能力の高い演技術」に同感しました、強力や鬼女の若手演者があそこまで舞踊をこなすのは大したものと感銘を受けました。現代能楽師もこのような作品を多く見て刺激を受けてほしいと感じた舞台でした。
投稿者 江口和郎 : 2015年03月21日 18:02