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2014年12月11日
星ノ数ホド
新国立劇場で上演中の『星ノ数ホド』を見る前に近所の「そじ坊」で天ざるを食す。
英国の新進劇作家ニック・ペインの戯曲に気鋭の女性演出家小川絵梨子が取り組んで、これまた若手の注目株、鈴木杏と浦井健治が挑んだ二人芝居だが、一時間半足らずの上演時間にしては見応え十分の作品だった。最初はまるで不条理劇を見せられているように意味がわからないシーンやセリフが何度か繰り返されるが、それは次第に特定の男女ふたりの身に起きる出会いや偶然の再会、プロポーズの瞬間、浮気、破局、病気といったさまざまなシチュエーションであり、そこにまたさまざまな想定(たとえば病気は軽いものから死に至るものまでといった)がなされて、人生はそれこそ「星ノ数ホド」の可能性に満ちていることを示唆する、つまりは人生そのものを宇宙的に俯瞰したような壮大なドラマといえる。それぞれのシチュエーションは必ずしも通常の時系列に沿ったものではないので最初は少しわかりにくいのだけれど、何度も繰り返されるうちに時間の不可逆性すら揺らいでしまうような人生の持つ意味というようなものが見る側に浸み通ってくる。同じ英国の劇作家ハロルド・ピンターの『背信』を想い出させるような構成で、こうした緻密な構成力はやはり英国の劇作家ならではであろう。男女を養蜂家と物理学者に設定しているために、その世界を語るセリフがメタフォリカルに響くのも効果的だ。現代の日本の若い男女がしてもおかしくない会話のセリフに仕立てた翻訳もいいし、中央に生命の象徴でもあり人生の多岐をイメージさせる一本の立木を置いて、その周囲にさまざまな場面を配した舞台の使い方も効果的で、翻訳劇とはいえ普遍性のある現代劇に仕上がっている。それにしても同じシチュエーションやセリフを微妙に変えながら何度も繰り返すのは実に大変そうで、それを大過なく仕上げたふたりの俳優の健闘を讃えたい。