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2014年12月05日
キレイ
松尾スズキがシアターコクーンに初進出したミュージカル作品「キレイ」は再演を見損なっているので、今回初演以来となる三演目を見たのだが、これはもう作者のみならず、この劇場の財産になったといってもいいくらいの傑作に仕上がっていて、久々に舞台に心地よく酔えた。露悪趣味的な作風の持ち主である松尾スズキの本性はシャイさに隠された意外に純なものであることは、この作品の初演でハッキリしたのだけれど、今回は台本がかなり整理されて、登場人物それぞれの膨らまし方がよりウエルメイドになっている結果、テーマ性のようなものもよりハッキリと伝わってくる。監禁されて陵辱され続けた少女や、死ぬことを前提として製造された人造人間の兵士、失明や痴呆から戦場で回復する男たち、本当の私は常にここにいないと感じる裕福な男女、それぞれが人生を生き直そうとするストーリを通じて、人間が生きるとは一体どういうことかをストレートに捉えた作品といってもいいが、そうした下手したら歯が浮くようなテーマを、ひねりにひねった偽悪的な文体を駆使して、ちょっとでも偽善的な臭いを排した語りかけをするところが松尾スズキの本領だろうし、現代の観客にはそうしたひねりがあってこそストレートに伝わるものがあるように思う。それはきっと観客のみならず現代の俳優も同様なのかもしれないと思われたのは、今回の俳優陣が阿部サダヲや皆川猿時といった松尾戯曲に馴れた劇団「大人計画」のメンバーと、田辺誠一や尾美としのり、小池徹平、オクイシュージといった劇団以外の参加メンバーでさほどの違和感がなく演技の交流が実にスムースに行ってるからで、それぞれのセリフや歌詞に俳優達を乗らせるモノがあるのだろうし、また伊藤ヨタロウ作曲のナンバーもテーマソングを筆頭に聴きやすい曲だからであろう。何よりも多部未華子、松雪泰子、田畑智子の女優陣がいずれもいいし、これまで映像に比べて舞台に物足りなさを覚えた松雪を今回はちょっと見直した感じである。