トップページ > マニラ瑞穂記

2014年04月03日

マニラ瑞穂記

久々に新国立劇場に出向き、これまた久々に「演劇を観た!」感が得られた作品というべきかもしれない。千葉哲也と山西惇と稲川美代子を除く全員が同劇場の研修所出身という非常に地味な配役ながら、一応観ておきたかったのは秋元松代の作品だったからで、期待に違わぬ骨太の戯曲が栗山民也の演出で手堅くまとめられたという印象だ。秋元作品の中では比較的わかりやすい部類の芝居で、舞台はマニラの日本領事館、時代は明治30年代、フィリピンの独立戦争を背景にストーリーが展開する。当時フィリピンは米国や日本の協力を得つつスペインの植民地から脱して独立政権が誕生したのも束の間、結局はスペインから2000万ドルで買い取ったアメリカが再び植民地化し、その間に独立を求める数十万人のフィリピン人が虐殺された。アジア諸国でいち早く近代化を成し遂げた日本はフィリピンから支援を期待されつつも、アメリカとの関係悪化を恐れた日本政府が支援に踏み切れなかった一方で、民間の志士が義勇軍として独立戦争に参加したという歴史的な背景がある。とにかく集団的自衛権が取りざたされる今の日本で、こうしたアジア諸国との歴史的な関係が一般にどこまで浸透しているのか非常に気になるところだし、そういう歴史的な背景を全く知らずにこの問題の是非を云々するほど無責任な話はないように思われるのだが、今どきのマスコミ人は全く知らなかったりするケースも多々ありそうなのが困ったもんである。
ともあれ、この戯曲ではフィリピンの独立を支援する日本の志士をパトロナイズしたのが秋岡伝次郎という女衒(実在の村岡伊平次がモデル)だったという設定で、彼の抱える娼婦たちや彼女たちと関係する男たちの
運命を描きながら、国が国を金で買って植民地化することと、人間が人間を金で買って娼婦にすることの理不尽さが重ね合わされ、男たちの争いに絶えず巻き込まれる女たちにはそもそも男たちがこだわる国境や国籍なぞ意味がないという皮肉な視点を設けたところがいかにも秋元作品らしい点だろう。秋元はむろん戦後の風景や六〇年安保を踏まえて書き上げた作品なのだろうけれど、今日に観ると近代以降の日本がずっと同じ問題を抱えているのがわかって何ともいえない気分になる。娼婦たちはいずれも研修所出身の若い女優たちが、それぞれ個性的なキャラクターをしっかり立てて好演している。千葉哲也の演じる秋岡伝次郎も山西惇の日本領事もそれぞれにユニークなキャラクターとして描かれているので、ふつうの芝居としても飽きさせない。


コメント (2)


アメリカとの関係悪化を恐れた日本政府が支援に踏み切れなかった一方で、民間の志士が義勇軍として独立戦争に参加したという歴史的な背景がある。

フリッピンの独立に関してこのような事実があった事は全く知りませんでした。多分安倍さんも知らないでしょう、苦笑。我々の勉強不足も世界から見れば笑止千万でしょうが、最近はマスコミの物知らずに時々「アホかいな」と思いますが、政治家はもっと酷い。
認めてはならない事ですが、政府が表立ってやらない、しない事を侠客や女衒が行って来た事実は昔からあるようですね。

投稿者 お : 2014年04月04日 11:14

そのようなお芝居がかかっていたとは知りませんでした・・・早速観にいかなきゃですね。

 
 宮崎滔天の『三十三年の夢』に「布引丸事件」として、フィリピン独立革命軍と日本人(大陸浪人、一部の軍関係者、一部の政界人)の協力関係の話が出てきます。後日談のドタバタも結構おもしろいですよ。フィリピン独立革命は孫文の中国革命につながっていきます。そして日本としては、とどのつまりが日中戦争になだれ込む訳ですから、このフィリピン独立革命運動への対応は、日本政府として一つの分岐点になったように思います。

 また、アメリカがフィリピン独立運動に協力したというのは、おそらくそうではなく、米西戦争の一環としてフィリピン駐留のスペイン軍を撃退するためにアギナルドを利用したというだけで、スペイン軍が敗退した後もアギナルドたち独立革命軍はマニラに入城ることすら許されませんでした。パリ条約でスペインからアメリカが2000ドルでフィリピンを譲り受けたのは、米西戦争の戦後処理として帝国主義国家間の取引がされただけで、フィリピン独立革命軍からの使者は会議に出ることすら許されませんでした。アメリカは自らが植民地であった国であり、独立して自由と平等を尊ぶ国であると国民も議会も自負していたのですが、結局ここでアジアへ植民地を獲得する足がかりを作りました。アメリカの対アジア政策にもここに一つの分岐点があったと言えます。

なんて・・・ついこの前授業のレポートで書いたばかりです。笑

tsubu(おばさんですが、女子大学生)


投稿者 tsubu : 2014年04月06日 00:38

コメントしてください




ログイン情報を記憶しますか?


確認ボタンをクリックして、コメントの内容をご確認の上、投稿をお願いします。


【迷惑コメントについて】
・他サイトへ誘導するためのリンク、存在しないメールアドレス、 フリーメールアドレス、不適切なURL、不適切な言葉が記述されていると コメントが表示されず自動削除される可能性があります。