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2013年09月05日

ヴェニスの商人

さいたま芸術劇場できょう初日を迎えた「ヴェニスの商人」だが、シェイクスピアファンのみならず歌舞伎ファンも是非ご覧になるといい舞台である。蜷川演出の舞台というよりも猿之助一座の公演と呼べそうなくらい猿之助のやりたい放題にも見えるけれど、歌舞伎システムをそのまま持ち込んだ彼の演技がシャイロックという人物の異形ぶりを際立たせ、彼がヴェニスの町という共同体にとって排除すべき異分子であることを登場の瞬間にわからせることで、この戯曲が持つ普遍性を改めて示し得たのは結果的にやはり蜷川演出の勝利といってもよさそうだ。猿之助はところどころに「夏祭」の義平次や「忠臣蔵」の高師直といった歌舞伎の型物演技の応用編をちりばめながらも、第1幕のラストで説得力に満ちた長ゼリフを聞かせて退場するシーンは圧巻の一語であり、全体として戯曲から逸脱せずにシャイロック像をまとめあげた手腕は素晴らしく、現在彼以外でこうした離れ業ができる俳優はまずいないだろう。歌舞伎では退場が「引っ込み」と呼ばれて一つの見せ場になるほど力点が置かれるが、シャイロックが法廷から退場するシーンも実に歌舞伎役者ならではの見応えがあるものだった。もっとも猿之助の存在感の濃厚さが芝居全体を覆って、いささか他のキャストが割を喰った観のある中で、特筆すべきはポーシャ役の中村倫也だろうか。いかにも現代にいそうな若い女性のイメージをくっきりと打ち出しながら、法廷の場での理屈っぽいセリフも滔々と聞かせて緊迫感を維持しており、歴代のポーシャを見た中でも出色の出来といっていいかもしれない。


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コメント (1)


松井先生、お見かけしました。
私も中村倫也くん、良かったと思いました。法廷を退場するときの花道七三の見返りのような、じっくり見せる間に、ジーンとしました。シェークスピア歌舞伎って言うか・・・。十二夜の時も感じましたが、シェークスピアって歌舞伎的ですね。
今までウェニスの商人、違和感を持っていたんですけど、きょうは終演後嫌な感じが残らなかった気がしました。

投稿者 田村 永里 : 2013年09月05日 23:54

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