トップページ > ABKAI

2013年08月05日

ABKAI

写真の晩ご飯はQPで見た料理。ナスをゴマ油でじっくり炒めてから豚肉をさっと炒め、味醂、醤油、砂糖を入れて、そこに煮干しの出汁を加えて付け汁を作る。素麺にはおろし生姜と青じその千切りを添える。意外にオイシイのでオススメ!
さて予告通り今晩は昨夜コクーンで観たABKAIの感想を。
とにかく初回とあって海老蔵が二役三役を兼ねる大奮闘だし、愛之助があまりオイシイ役でもないのにしっかり付き合っているし、海老ファンには十分満足のゆく出来映えだったのではなかろうか。歌舞伎はとにかく役者びいきで見るのが基本だから、ファンが満足ならそれでいいようなもんだが、現代演劇の上演では今もっとも勢いを感じさせる劇場でもあり、また亡き中村屋の果敢な取り組みが強くイメージづけられた劇場での公演でもあるだけに、従来のファンのみならずもっと幅の広い客層の取り込みを図る努力が今後回を重ねるなかで大いに期待されるところであろう。
まず第一幕は歌舞伎十八番「蛇柳」の復活だが、何しろ初演の記録でハッキリわかるのは丹波の助太郎という役名くらいのものだし、復元の手がかりが乏しいなかでは比較的無難な松羽目物仕立てにしている。松羽目でなく柳羽目であるのもミソといえそうだ。海老蔵は後ジテの般若隈が似合うし、早替わりで途中から押戻で出るのもサービス満点ながら、欲をいえば、亡き妻を慕う夫の物狂いとしてこぢんまりとまとめた前ジテをもう少し膨らませる方向性があるように思えた。現行の振付もそこそこ面白く出来てはいるのだけれど、やはり蛇柳はそもそも嫉妬の怨霊をモチーフにしているものなのだから、たとえばそれを活かした形で、前ジテの夫に嫉妬で狂死した妻の亡魂が取り憑いて、双面じみた趣向になるフリも加えて、もっとたっぷりと踊らせてみたいところである。もっとも今度の公演では出ずっぱりだから体力的にムリだったとしても、再演する機会があれば、是非そういう方向で前ジテのボリュームアップを図ってほしいものである。
第二幕は新作の「はなさかじいさん」で、本人は爺さんのほうなのか、犬のほうなのか、果たしてどっちなんだろう?と思っていたら、悪い爺さんと犬の両方を演じている。で、ストーリーは人間の環境破壊みたいなものがモチーフとして取り入れられており、震災の津波後の風景を想い出させるようなシーンもあるにはあるのだが、台本はそうした現代的な寓話としての一貫性よりも、たとえば丸本の「物語」といった演技術や早替わりや宙乗りなどなど歌舞伎のさまざまな芸を見せる容れ物として機能するほうを重視しているので、これまた従来のファンにとっては満足かもしれないけれど、せっかく宮沢章夫を作者に頼んでいるのだから、しっかり風刺のパンチもきかせた作品に仕上げてほしかったところである。花咲じいさんのもとに現れる犬が実は桃太郎の犬で、その桃太郎が盗賊に転落して悪行の限りを尽くしているという設定はけっこう面白かったのに、これが尻切れトンボで終わっているのも勿体ない気がした。いっそのこと桃太郎は竹島か尖閣諸島に攻め入って、それで悪党になったみたいな展開にしたらどうだろう?なんて思いついちゃったのだけれど、会の性質上そこまでカゲキな風刺はきっとムリなんだろうなあ。ともあれ二役早替わりを優先しなくてはならないせいか、悪い爺さんの話もイマイチ膨らまないのがちょっとザンネンな台本である。さはさりながら、東西の歌舞伎界を代表する若手イケメン同士が共演をしているのに、両人共に爺さんと犬という役どころで出ているのがなんとも勿体ないような感じが妙におかしいから、企画自体は成功の部類なのかもしれない。おとぎ話シリーズにするのも悪くないけれど、今後はもう少しカッチリした台本で、歌舞伎通や海老ファン以外のオトナの観客にもそれなりに面白い演劇と感じさせるような作品を望みたいものである。演技の面では犬の役を狐忠信のバリエとして表現しているのはよくわかるものの、先代猿之助の声にまで似せる必要はなさそうである。『蛇柳』の押戻でも亡き團十郎が登場したのかと思うような声だったが、懐かしいとはいえ、これまた声を似せる必要は断じてない。むしろ十二代目は荒事特有の甲声が出なかったところに問題があったわけで、海老蔵はそれをきちんと本来の荒事の甲声に戻す責任があるのではなかろうか。九代目團十郎から七代目幸四郎を経て伝わった先々代松緑や、そこからさらに伝わった富十郎の録音はちゃんと残っているので、それらを参考にして復元できないはずはないのである。この点は荒事の根幹に関わる問題だけに、市川宗家を背負って立つ者の自覚を待ちたいところだ。


このエントリーのトラックバックURL:
http://www.kesako.jp/cgi-bin/mt/mt-tb_kesako2.cgi/2724

コメント (4)


「蛇柳」想像もつかない演目でしたが、松井さんの解説で怨霊ものだと分かりました。関西から全く分からない演目を見に行く気にもならなったですが、やはり行かなくて良かった(^◇^)

私も最近海老蔵の口跡が12代目団十郎に似てきているのが気になってましたが、本人が真似ているのですか?
12代目よりも海老蔵のほうが押し出しのきく口跡だったので歯切れの良い団十郎になるかと期待してたのですが。

投稿者 お : 2013年08月06日 22:52

私が感じた事すべてが 松井先生の文章にまとめられていて。
読んでいて納得でした。私は彼の贔屓ですが今回の会の内容には
疑問を感じて帰宅しました。とくに蛇柳の前ジテの振りの乱暴さ
にはがっかりでした 早変わりの為に吹き替えのつなぐ時間が
長いのもしらけます。鎌髭も屋島のご趣向がありましたので。
今回の犬と同じですし。十八番の復活(創作)は年に何本も
出来るものではありません。今となれば人材もないでしょうが
猿翁丈などの助言を得て慎重にする仕事ではないでしょうか。

投稿者 かまわぬ : 2013年08月11日 04:42

コクーンというとやはり勘三郎さんと比較してしまいますが、どんなにくだらないと思われるであろう新作でも一生懸命演じていた勘三郎さんに比べると、どうもご本人自体がくだらないという思いを持って演じているような気がしてなりませんでした。
一生懸命演じているつもりでも、役者側の本気は観客に伝わります。
全体的に薄っぺらい自主公演だったような気が。。。
でも、次回に期待する事にします。
海老蔵さんは、小さい頃から胸ときめかせる魅力を持つ役者さんだったので、是非頑張って精進頂きたいです。

投稿者 ステラ : 2013年08月18日 08:01

コクーンというとやはり勘三郎さんと比較してしまいますが、どんなにくだらないと思われるであろう新作でも一生懸命演じていた勘三郎さんに比べると、どうもご本人自体がくだらないという思いを持って演じているような気がしてなりませんでした。
一生懸命演じているつもりでも、役者側の本気は観客に伝わります。
全体的に薄っぺらい自主公演だったような気が。。。
でも、次回に期待する事にします。
海老蔵さんは、小さい頃から胸ときめかせる魅力を持つ役者さんだったので、是非頑張って精進頂きたいです。

投稿者 ステラ : 2013年08月18日 09:42

コメントしてください




ログイン情報を記憶しますか?


確認ボタンをクリックして、コメントの内容をご確認の上、投稿をお願いします。


【迷惑コメントについて】
・他サイトへ誘導するためのリンク、存在しないメールアドレス、 フリーメールアドレス、不適切なURL、不適切な言葉が記述されていると コメントが表示されず自動削除される可能性があります。