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2012年11月05日

明治座

今日は朝5時から執筆を開始。夕方からは明治座の歌舞伎公演を観た。大宮からは思いのほかベンリで早く着きすぎたため、久々に甘酒横丁をゆっくり通ったが、以前より賑わいを増していて、通りの幅も広すぎないから、昔ながらの芝居町らしい雰囲気は歌舞伎座周辺よりもこちらにずっと強く感じられる。この劇場が巨大なビルに建て変わった時は興ざめだったものの、町の雰囲気がそれを巧く救ってくれたのだけれど、来年再オープンされる歌舞伎座が一体どんな感じになるのか、歩きながら、ふと、心配になったものである。
さて、新猿之助の奮闘興行ともいうべきこの公演、夜の部の演目は鶴屋南北原作の「天竺徳兵衛新噺」で、大変な無人の一座ながら、客席は大盛況である。舞台のほうも理屈はヌキにしてとにかく座頭の見せ場をふんだんに盛り込んだコンパクトな台本で飽きさせずに進行し、ファンが満足できるようなものには仕上がっていたように思う。役者として器用であるのは新猿之助の強みであり、時にはそれが弱点になって感じられる時もあるのだけれど、この芝居は器用さを巧い具合に活かしたパターンといえる。序幕の第一場は現代の政治を諷した天竺徳兵衛の今様ばなしに始まって、「毛剃」のような汐見の見得で閉じられるが、この汐見の見得にはもう少し大きさがほしいところである。小柄な役者でも舞台でカラダを大きく見せることは出来るはずで、それこそが舞台役者の生命でもあり、第二場の上使の役で光秀のような燕手の実悪姿で出てくるとカラダがぐっと大きく見えるわけだから、汐見の見得でもカラダの使い方を工夫すればもっと大きく見せられるのではあるまいか。眼目となるのは二幕目の世話場で、同じ南北の「彩入御伽草」を元にした小幡小平次の怪談を取り入れており、小平次の役はやはり初演した猿翁のほうがニンに合っていたものの、二役で演じる毒婦おとわの役は新猿之助のほうがずっと似合っているように感じた。この人のいわゆる「悪婆」の役はなかなか魅力的なので、今後も他の芝居でもっと見せてもらいたい気がする。小平次の不気味さは出せないのか、出したくないのか、いずれにしろ怪談の主人公としては物足りなく感じられるいものの、怪談でも笑いが起こるようなライト感覚のほうが今風の観客には受けがいいと本人が判断しているのかもしれない。大詰めは石川五右衛門やら「関扉」の関兵衛やら「本朝廿四孝」やらさまざまな有名戯曲を別にパロディの意図なくコラージュしたような台本で、宙乗りはたっぷり見せてくれるし、錦秋の舞台にふさわしい大曲輪の幕切れにもなっているとはいえ、こうも他の戯曲を取り入れられると、かえって「天竺徳兵衛」ならではの本水をたっぷり使った水中の早替わりなんかをちゃんと見せてほしくなったのだけれど、考えてみたら今月の興行に本水はちょっと合わないかもしれません。


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コメント (2)


昨日は私も明治座で、開演前に甘酒横丁を歩いたので、ニアミスしていたはずです。甘酒横丁も明治座も初めてでしたが、明治座ロビーは仲見世のような賑わいで、江戸の芝居小屋の気分が感じられました。
「天竺徳兵衛」は10年近く前、今朝子さんがラジオ番組収録で語られたのを聴いて以来、ずっと観たかった芝居です。初上演では、大きな水船に姿を消してすぐ花道に現れる早業や呪文などが、切支丹の魔術か、と話題を呼んで大入りになり、芝居小屋に町奉行の見廻りがあったものの、実は南北が話題作りの為に広めた噂だった、とか、その後の四谷怪談、初代松助の芸について等々、歌舞伎を見始めたばかりの私には分かり難い個所もありましたが、とても興味深い話ばかりで、やっと今回、観ることができました。
昨日も、本水はなかったものの、「ハライソ」の呪文やガマの大仕掛け、早替わり、冒頭の異国話など、スピーディで飽きさせず、2階席脇からは花道引っ込みは見えなかったものの、葛篭抜けの宙乗りを間近で見れて、芝居の面白さを満喫しました。

投稿者 ウサコの母 : 2012年11月06日 21:18

見たいですね4世猿之助の「天竺徳兵衛」来年1月に松竹座でも襲名興行があるのですが、昼は「吉野山」夜は「川連法眼館」両方とも狐忠信。もうちょっと考えて欲しいですわ。
当代猿之助さんはやはり女形、あくの強い女形の演目を一つ加えて欲しいです。

投稿者 お : 2012年11月06日 22:22

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