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2012年08月23日
芭蕉通夜舟
紀伊國屋サザンシアターで井上ひさし作・鵜山仁演出『芭蕉通夜舟』を観る前に高島屋レストラン街の「小松庵」で食事。
初演は見損なっていて、今回初めて観た一人芝居の作品だが、初演が誰だったか気にならないくらい、坂東三津五郎が自家薬籠中の物として演じている。この人はこれまで外部出演で気の毒なくらい作品に恵まれない印象を受けていただけに、今回の公演は観る側としてもホッとした気分である。
作品自体は芭蕉の生涯を追いながら、それがドラマチックにではなく、スケッチコント風に綴られて、そこに井上氏の芭蕉論乃至俳諧論が展開されるという仕組みである。したがって一場面一場面は俳諧のように短く且つ軽みを身上としているから、観ていていささか喰い足りない気がするのだけれど、それを三十六景積み重ねていくことで、言葉遊びの談林風俳諧から、ひとりで生まれひとりで死んでいくしかない人間の存在そのものもまた宇宙の点景に過ぎないとの悟りを得た蕉風の俳諧に至る道筋がくっきりと浮かびあがり、それは作者である井上氏自身の文学とも重なる点のあることが伝わってくるのである。三津五郎がセリフを腹の底からわかったものとして聞かせてくれたのは、自身が俳句を詠むことで、俳諧の精神にも理解が行き届いているせいかもしれない。初演はどんなふうに演じられたのかわからない朗読の役が、今回黒衣として登場して差し金を使ったりするのも、弟子が手馴れている分スムースに運んでいるし、たぶん作者の入念な指定もあるのだろうけれど、小道具の使い方も洒脱で面白かった。
終演後にロビーでバッタリ元集英社の八代さんとお会いしてお茶する。八代さんとは本当に色んな劇場でお会いすることが多く、一体どんだけ芝居を見てらっしゃるんだろう😲と、いつも感心しきりであります。
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コメント (1)
どうしようか?と考えていたのですが「芭蕉通夜舟」大阪公演を見ることにしました(^◇^)
三津五郎さん、歌舞伎で五郎ものはあまり似合わないのでやって欲しくないのですが、江戸前の小粋な役者さん、おじい様をかすかに覚えている歌舞伎ファンとしては違いを楽しんでます。
投稿者 お : 2012年08月24日 10:24