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2012年07月28日
和塾at新橋演舞場
今日は午後3時から和塾の講演を新橋演舞場の地下で行い、なにしろ隣の食堂では準備の音がするので、いささか集中力にかける憾みがあったものの、参加した方々がとても熱心に聴講してくださったのは有り難い限りだった。ひと通り演目の解説をし、そのあと私も拝見させてもらい、これで2ヶ月連続で澤瀉屋の襲名を観ることになった。
序幕の「将軍江戸を去る」は、将軍慶喜役の団十郎が姿かたち、佇まいはいいのだけれど……(__;)で、中車のほうも、この人なら山岡鉄太郎の江戸っ子らしい歯切れの良いセリフまわしがもっとできるはずだと思うが、相手役に引きずられたのか、もったりしている。喉がやられたのも、妙に力みすぎだからではないか。この芝居で意外に良かったのは高橋伊勢守役の海老蔵で、いつもは流してしまう慶喜と伊勢守のやりとりを、しっかりと聞かせたのはお手柄だろう。大詰めで千住大橋の畔に集まる人びとのセリフも気が入っていていいのは、澤瀉屋一門の強みというべきだろうか。
次の場の口上では、団十郎のしゃべり方がとてもナチュラルだし、口跡も気になるほど悪いとは思わないので、やはり発声にそう問題があるのではなく、セリフまわしの段階でおかしくなるようだから、それをもっと早い段階で、少なくとも団十郎になる前に、誰かが親身に助言してあげればよかったのにと思わざるを得なかった。「黒塚」の場合はは本行の能に準じているから、そんなにおかしくないのである。だから新作のセリフならば、ふつう演出家がちょっと何か言ってあげることで、すぐに少しは良くなるようなことだったのかもしれないのに、今となっては何をかいわんやであろう。
「黒塚」の猿之助は、評判を聞いて思っていたよりも良くやっている。声は伯父さんそっくりで、前半の糸車のくだりもダレなかったし、眼目の「お月さまさえ障りがござる」以下の手踊りも気の入った舞いぶりで老女の心理をわかりやすく伝えている。ただ後ジテにはもう少し手強さがほしいところだけれど、挿毛の頭になっても後ろ姿が女に見えるのはある意味たいしたものであり、この人の本領はやはり女形なのかもしれないと思わせた。
大切りの「山門」は肝腎のセリフが大幅にカットされて(私の解説とゼンゼン違うのには参った^_^;)、五右衛門役の海老蔵の出し物というよりも、久吉役の猿翁の出し物になっていて、これも海老蔵が猿翁に心酔しているからこそ成立する舞台だと思わせた。猿翁は動きもしゃべりも先月よりずっと良くなっている様子で、この調子でいったら本格的な舞台復帰があるかも?の驚くべき快復振りで\(◎o◎)/ たぶんファンの拍手喝采がこの人をどんどん元気にしちゃったんだろうなあと思わせて、なんとも役者だましい恐るべし!!!といった感じであります。
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コメント (2)
私も新橋演舞場夜の部を見に行きました。松井さんのおっしゃる通り、あまり誰も言いませんが、團十郎のセリフには力がなく、体調不良かと心配するほどでした。猿之助の黒塚は、中の場の踊りに老婆の密やかな楽しさが表れていて、良かったと思います。
松井さんの歌舞伎劇評を聞きたいです。是非、これからもブログで取り上げてください。
投稿者 佐藤徹 : 2012年07月29日 10:49
役者は客の前に出なければいけませんねえ。猿翁、お練りの時の様子をテレビで拝見した時は「本当に舞台に立てる?」と思いましたが。先月も後半になりセリフははっきり言えないものの見栄が段々様になり、今月はそれなりに大看板で演じておられます。多分我々もきっと人前に出て行く事で自分らしく振る舞えるんでしょうね、幾つになっても。
団十郎丈のセリフ回し、ホンマどないかならんもんかいな?と思います、粋を通す江戸歌舞伎の本家の棟梁が「もっちゃ~~」としたセリフ、助六の時も江戸の方が「ぜいろくに助六はやれるもんか!」と言われますが、元上方役者の仁左衛門丈の方がずっと粋に感じます。
投稿者 お : 2012年07月29日 17:11