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2012年06月08日
市川猿之助、市川中車襲名披露
新橋演舞場の昼の部は久々の超満員で、新猿之助や中車にはもちろんのこと、起死回生の興行的成功にもおめでとう\(^O^)/をいうべきだろうか。お茶の阪本星野両先生と相弟子の岩崎さんともども前から五列目の花道際という素晴らしい席で観劇し、終演が2時半というメチャメチャ中途半端な時間だったせいもあって、そのあとペニンシュラ・ホテルで豪華なアフタヌーン・ティーまでしてしまったのは半分ヤケクソ的な贅沢のような気もするほど、とにかくお高いチケットだったので、この際、言いたいことを言わせてもらおうと思う。
序幕の「小栗栖の長兵衛」は、まずイイ演目を選んだものである。一杯道具の地味な舞台面ながら、人が大勢出て動きまわることで華やかに見えるし、主人公の退場の仕方も派手だから、意外なほど襲名演目にふさわしい感じで、新中車も十分にその魅力を発揮している。この人の舞台は蜷川演出「桜の園」のロパーヒンくらいしか見ていなくて、その時は期待していた割に印象が薄かったように記憶するから、今度は期待しないようにして見たのだが、猿之助一門の役者たちにこれまた意外なほどよく溶け込んでいて、常識人たちの怨嗟の的である手の付けられない乱暴者が逆に彼らの化けの皮をはぐという、いかにもトリックスター的なタイトルロールの主人公を演じて、この芝居のシニカルな面白さをしっかりと伝えている。3階席では声が届きにくいという批判も聞いていたのだけれど、1階でも見る分には発声の難もさほどに感じなかったし、何より役者として大きく見えたのは結構であった。ただもう少し舞台で何もしないでじっとしていられる
ことを身につけたら、歌舞伎役者としても立派にものになる人だろう。もっとも口上はまだまだで、やはりこの口上というものは、歌舞伎役者の格やキャリアが如実に滲み出ることが改めて思われた。新猿之助は才気煥発なこの人らしい口上で、彼独特の畳みかけるようなエロキューションにはちょっとハマってしまいそうなところがある。新猿翁は化粧した顔が昔とそう変わらないだけに涙を催さずにはいられす、つい先代のことを想い出して、襲名口上で涙を誘うのは澤瀉屋のお家芸なのかも、という気がしたほどである。
ところが一番の眼目である新猿之助の「四ノ切」がまったく涙を誘わないというのは一体どうしたものか。せっかくの襲名にケチをつけるのはどうかと思いつつも、これまで若手随一の芸達者と認め、大いに期待もしていただけに、正直今回は失望させられた感じだ。まず役者ぶりの小さいのが気になった。ふつう襲名時にはどんな役者でも大きく見えるものなのに、亀治郎の時のほうがもっと大きく見えたというのは困ったものである。また、まさかこれをスペクタクル本位の芝居とのみ解釈しているわけではないにしろ、テクニックで処理する意識が強すぎるように思われるし、かりにテクニックで処理するならするで、本行の義太夫の
狐詞をしっかり勉強した上ですべきであるのはいうまでもない。もともと怜悧な芸風のこの人には向かない演目なのかもしれないとはいえ、私は「四ノ切」を先代勘三郎から観て、むろん先代猿之助を何度も観て、一度として泣かなかったことはないこの芝居で、泣かしてくれなかった亀ちゃん、ならぬ新猿之助を恨みに思う。とにかく彼なら義太夫の名人級のレコードなんていくらでも聴いているはずだし、伯父さんの舞台だって観てるだろうに、それでいて今回のような役作りになった背景には、この作品に対する彼なりの割り切った解釈があるのだと思うけれど、どうもそんな風に割り切ってしまうのはドライ過ぎるし、古典に対する尊敬心が欠けているといわれても仕方がないのではなかろうか、という苦言をここに呈しておきたい。
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コメント (10)
涙している人もいますが…
自分の知ったかぶりを披瀝することで
優越感を味わう典型的なタイプですねw
投稿者 ふんどし : 2012年06月09日 08:50
よくぞ云ってくださいました!拍手!!
最近は新聞記者の文芸担当の批評記事が横行、しかもとかく役者の提灯持ち記事ばかりでうんざりしてましたが、松井先生のブログを読んでスカッとしました。
とかく一門の流儀でしょうか、『吉野山』だってケレンにしてしまう、六代目が嫌ったそうですが・・・・私も歌舞伎の本領ではないと思います。
「ヤマトタケル」が新猿之助の云うように”古典”なのでしょうか?
ケレン物が好きだとか嫌いだとか言う以前の問題だと思いますが。
投稿者 syun : 2012年06月09日 11:03
よくぞ云ってくださいました!拍手!!
最近は新聞記者の文芸担当の批評記事が横行、しかもとかく役者の提灯持ち記事ばかりでうんざりしてましたが、松井先生のブログを読んでスカッとしました。
とかく一門の流儀でしょうか、『吉野山』だってケレンにしてしまう、六代目が嫌ったそうですが・・・・私も歌舞伎の本領ではないと思います。
「ヤマトタケル」が新猿之助の云うように”古典”なのでしょうか?
ケレン物が好きだとか嫌いだとか言う以前の問題だと思いますが。
投稿者 syun : 2012年06月09日 11:03
よくぞ云ってくださいました!拍手!!
最近は新聞記者の文芸担当の批評記事が横行、しかもとかく役者の提灯持ち記事ばかりでうんざりしてましたが、松井先生のブログを読んでスカッとしました。
とかく一門の流儀でしょうか、『吉野山』だってケレンにしてしまう、六代目が嫌ったそうですが・・・・私も歌舞伎の本領ではないと思います。
「ヤマトタケル」が新猿之助の云うように”古典”なのでしょうか?
ケレン物が好きだとか嫌いだとか言う以前の問題だと思いますが。
投稿者 syun : 2012年06月09日 11:04
木曜日の夜の部を見ました。 スーパーカブキは見た事なかったので、新派や長谷川歌舞伎 なんかが過ぎり、、戸惑いましたが、 そうだ 別に歌舞伎と思わなければいいんだ、、と枠を外したら、段々 面白くなりました。 唸るような芝居は無かったですが、猿翁が最後に出てきて 祝祭に参加してるような感動でした。芝居小屋から出て銀座まで歩きながらウキウキしました。 木戸銭払った分は、私は楽しみました。
投稿者 八島秀二 : 2012年06月09日 23:31
今回は新猿之助さんの狐は利口そうなので、鼓を貰うことまで計算づくだったのではないかと私は思いました。藤十郎さんの義経はそんなことは承知の上で鼓をあげているように見えました。同じ演目でも役者によって印象がだいぶ変わりますので、歌舞伎は面白いですね。
投稿者 tucci : 2012年06月09日 23:50
亀治郎は梅原流「学者肌」っぽくて、歌舞伎芝居を理論的に分析しすぎるのかも知れませんね。幼い彼の「独楽』はきびきびかわいらしい日本男児、すなおな踊りでした。すばらしい役者なのに、松竹側が傍流扱いしてきた面があるのではないでしょうか。
彼はみずみずしい若木。すなおな芝居を心がけてほしい。べたつく中村屋や、傲慢な海老蔵と根本的に違う、匂いたつ花橘の薫風を亀治郎(新猿之助)に期待しているのですが。。。松井さんも期待なさっていただけに残念でらしたことでしょう。
投稿者 ウーピー : 2012年06月10日 20:52
あの一座で一等の19000円はいくらなんでも高いと思ったので、どうしようかと思っていました。やはり今回の襲名興行はパスします。そのうちテレビでさわりだけ見ればいいか。
投稿者 hanako : 2012年06月12日 15:34
失礼をいたします。同日、昼の部を自分も拝見いたしました。
亀治郎の会で、安達が原演じていた、あの新猿之助さんの「四ノ切」は正直「不憫な子狐に胸が詰まる」を感じられませんでした。そうしかお芝居見られない自分なのか、帰り道考えてしまいましたが、これからも猿之助さんの舞台が楽しみです。
何よりも先生が触れて下さっている、この日の猿翁さんのお顔が冴えわたり、手を上げず不動で華やかな口上、忘れられません。
投稿者 syunrei : 2012年06月19日 13:50
失礼をいたします。同日、昼の部を自分も拝見いたしました。
亀治郎の会で、安達が原演じていた、あの新猿之助さんの「四ノ切」は正直「不憫な子狐に胸が詰まる」を感じられませんでした。そうしかお芝居見られない自分なのか、帰り道考えてしまいましたが、これからも猿之助さんの舞台が楽しみです。
何よりも先生が触れて下さっている、この日の猿翁さんのお顔が冴えわたり、手を上げず不動で華やかな口上、忘れられません。
投稿者 syunrei : 2012年06月19日 13:51