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2012年03月22日

魔笛

ご存じモーツアルトの「魔笛」を20世紀の巨匠ピータ・ブルックが演出した舞台はすでに世界各国で高評を得て、今日はさいたま芸術劇場で本邦初演の運びとなり、関係者の多い客席では珍しいほどの熱い拍手がカーテンコールに沸き起こって、今年87歳を迎えた巨匠の健在ぶりを証明した。
この人の演出の舞台が初来日したのは私の学生時代で、さすがにナマでは観ていないのだが、学生寮のテレビ室で観た「真夏の夜の夢」の録画中継は今も忘れがたく、著書「なにもない空間」のタイトルがいみじくも象徴するシンプル且つ斬新なその舞台は実に衝撃的で、私の世代にとっては世界の演劇に目を向けさせた最初の人といっていいと思う。今回もまた「魔笛」という、「真夏の夜の夢」に負けないくらいにゴチャゴチャした一種の猥雑さが持ち味ともいえる歌劇を、こんなにもスッキリとシンプルに美しく、しかも面白いところはより面白く見せることが出来るのか!!!という驚きに満ちた舞台であった。それはホリゾントとその前に立て並べられた竹のみを使った舞台空間のみならず、可能な限り削ぎ落とされた音楽によるところが非常に大きい。有名曲は網羅しつつもカット換骨奪胎される形で、なんとピアノ一台と歌手のほぼ独唱で表現されるため、この歌劇の「核」とでもいうべきものが、音楽的にも劇的にも非常にシンプルにくっきりと浮かびあがる仕掛けなのだ。結果的にどちらかといえば歌舞伎的な作品の「魔笛」が、お能のような抽象性の高い作品に仕上がっていて、そこにはドメスティックなドラマや、若者がオトナになるために必ず通る道や、男と女の本質的な敵対といった極めて普遍的なドラマの要素が満載された上で、それらもろもろの葛藤も最後には音楽=芸術の下で調和に至るという、この歌劇の本質が鮮やかに示されて、まさしくP.Bらしい舞台であった。
思えばブルック演出の舞台を観るのは世田谷パブリックシアターの「ハムレットの悲劇」以来で、今宵はさいたまに引っ越して来て本当に良かった\(^O^)/と思えた一夜でもあります。


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コメント (1)


真夏の夢 の初日を日生劇場で見た時の事が思い出されました。 

Pブルックの「なにもない空間」をバイブルとした私には、魅惑的な舞台でしたが休憩で廊下に出ると 加藤治子さんが高橋昌也さんに 「なあに これっ? 」ってポカンとしてたのが印象的でした。 

投稿者 八島秀二 : 2012年03月23日 15:39

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