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2012年02月29日
なごり雪
けさ起きたら外は真っ白で、こういう日は散歩好きの私でもふつうなら籠城してしまうところだが、今日は中村雀右衛門さんのご葬儀とあって、午前中に家を出て青山斎場へ。電車は遅れるし、タクシーがなかなか拾えず、葬儀の開始時刻には遅刻するも、片山幽雪師に続く坂田藤十郎丈の弔辞からはスピーカーを通してしっかり聞くことができた。その間ガラス張りの控え室で降りしきる雪をずっと眺めながら、故人が「兄さん、雪を降らすんだったら、僕も負けてませんよ」と言わんばかりの降り方だなあと思われたのは、歌右衛門が亡くなった日も、四月一日で桜が咲いていたにもかかわらず、雪が降ったのを想い出したからである。これで雀右衛門さんの葬儀も決して忘れることはないだろうし、天の力を借りた演出で自らの死までも深く印象づけるのはさすがに名優ならではと思われたのだった。藤十郎丈の弔辞にも、喪主である大谷友右衛門丈の挨拶にも、同様に雪についての感慨が込められていたのは、これまた芝居の世界に生きる人たちならではというべきだろうか。
告別式のあと近くの東京都立中央図書館に向かい、気になっていた調べ物で、大正から昭和初期にかけて刊行された築地小劇場の機関誌に目を通していたら、なんとまだ二十歳そこそこの杉村春子の写真を発見!その可愛らしさにビックリ(@_@)/ 考えてみれば、小津安二郎の映画に出てくる杉村さんだって、もう相当なオバさん顔だったから、昔はこういう人でも女優になろうとしたんだ〜なぞと失礼にも思っていたことを深く反省するくらいキュートな写真でした(^_^ゞ 情報誌の「ぴあ」で演劇ライターをしていた頃に、杉村さんとも一度お目にかかってインタビューをしたことがあるのだが、こんな若造の質問にも丁寧にお答えになり、最後に「あなた方のお仕事も大変ねえ」とねぎらわれたのが今も忘れがたい想い出だ。半日激しく降り続け、夜にはもう溶けてしまったなごり雪のせいか、今日は自分の出会った名優たちがやたらに想い出される日でありました。
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コメント (3)
大好きだった雀右衛門さん亡くなられてしまいご高齢だったとはいえ残念です。大昔の事になってしまいましたが亡き川口秀子師の会で地唄舞を舞って下さった時のことを思い出します。
あれだけの方が緊張して細かく手が震えて舞っていられ舞台のそでで観ていた川口先生が感激して涙ぐんでいらしたのを憶えています。合掌
投稿者 ねこかおる : 2012年03月01日 13:35
歌右衛門の命日は3月31日です。
投稿者 匿名 : 2012年03月02日 00:11
歌右衛門さんは桜に雪でしたが、雀右衛門さんは満開の梅に雪でしたね。開花が遅れていた梅もこの時期を選んだように満開でした。東京ではめったに降らない雪、しかも本当にみごとな雪景色でした。寒い中、ご葬儀に行かれてお疲れさまでした。
投稿者 ツブ : 2012年03月02日 09:24