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2011年03月29日
「なべ家」健在
新潮社では雑誌の紙はしっかり確保してあるそうで、小林姐さんの話によると、「被災地の避難所では、新刊の漫画誌がとても喜ばれているらしいし、やっぱり小説誌だって楽しみにしてる人はいるはずだから、来月もちゃんと出そうという話になったんですよ」とのことで、今月も延期にはなったけれど恒例の「なべ家」での会食はしっかり行われたのである。震災当日は2階で宴会があって、お客様がちょうど帰ろうとした時にグラグラッと来たらしい。台所ではちょうど賄い食の天ぷらを揚げている時だったそうで、鍋の油がちゃぷちゃぷ揺れて物凄く怖かったと、お店の方が仰言っていた。幸い店は完全に無傷で営業は続けられているものの、今後は食材の仕入れや何かも難しくなるだろうから、同業者の娘に生まれた私としては、本当に頑張ってくださいとしか申しあげようがない。京都祇園の「川上」でも、これからシーズンの筍料理に欠かせない三陸のわかめが手に入らないし、御茶屋の宴会等はキャンセルが相次いでいるそうで、自粛ムードによって2次被害を受けてしまう人たちのことも考えてほしいと言いたくもなるのだった。
帰宅してTVニュースを見たら、東京の花見自粛をめぐって、石原都知事が例によってえらそうに「止めたらいいんだよ。花見なんかしてる場合か!(被災者の方と)一緒に痛みを分かちあってこそ国の一体感が生まれるんだ」的な発言をしたのがたまたま耳に入ってしまったために、こんなバカをのさばらせておく東京都民ってどうかしてやしないか!!!と久々にカッと頭に血が上った私である。福島原発に関して、この男が今どう思ってるかを、ちゃんと訊いて、問い詰めるだけの根性がある記者もいないのが腹立たしい。何故ならこの男はTVでつい最近まで日本は核武装をすべきだと公言していたからである。中曽根元首相との対談で、さすがにそのとき中曽根氏は、戦争経験者だから、核武装をすることは決して日本のためにはならないと断言したのが印象的だった。
要するに石原には軍国少年の刷り込みがあるだけで、実際には徴兵に応じたことも戦場に行った経験もないわけで、そうした手合いに限って口だけは勇ましいことが言えるのである。この男の発言を、最初はマスコミも面白がって拾い集めていたのだろうけれど、そのうちだんだん過去の歴史に無知な若い子が増えた結果、これほどキッパリした発言ができる人は今どきないよね~的な持ちあげ方をする輩まで出てきたことに一体どう責任を取るんだ!!!と言いたくなる。この男の話になると、私まで感染してつい乱暴な論調になってしまうのが、ああ、むちゃくちゃ腹立たしい(笑)。
閑話休題。コーフンのあまり話が飛んだが、「なべ家」の帰りには、渋谷で翻訳家の松岡和子さんと久々にお会いして、福島原発がどうやら多少なりともメルトダウンを起こしているという深刻な事態が明らかになる中で、互いにそれぞれの覚悟のようなものを開陳する形となった。
松岡さんは、泉谷しげるが毎日新聞に書いた「一日一善」ならぬ「一日一偽善」という言葉が気に入られたそうで、これまでは寄付するということにどこか抵抗があったのだけれど、「そうか、どうせ偽善なんだと思えばいいんだ~」と却って義援金をどんどん出せるようになったとのこと。松岡さんにして、そういうシャイなところがあるのは、やはり日本人らしいというべきか。最近のもう一つのモットーはご自身で生み出した「正しい刹那主義」という言葉だとか。自分でもこんなに乗馬が好きだったのかと呆れるほどで、明日も御殿場へ乗りに行くのだという。「あとはもう13本の(シェイクスピア作品)翻訳をする時間だけを残してほしいと願うだけよ。東京を離れる気はないけど、でも若い子たちには逃げてほしいと思っちゃうわねえ」としみじみ仰言ったものである。
この間、私はwayseaさんから寄せられたサイトや松岡さんから回ってきたYouTube映像による小出裕章氏の原発に激しい警鐘を鳴らした講演
http://www.youtube.com/watch?v=4gFxKiOGSDk&sns=em
も見ていて、若い人たちだけはなるべく早く安全な区域に移動できるものならしてほしいように思うのだけれど、自身この歳でジタバタしたくはないし、これまでさんざん福島原発が発電した電気の恩恵に与りながら、その地元の人たちが最も被害を受けている事実を知って、関東から逃げだすような不義理な真似はとても出来ないというのが正直な気持ちであり、それが日本人らしい消極的な良心のありようだと思うのであった。「なべ家」を去り際に、ご主人の福田さんが「歌舞伎座もなくなったし、相撲もなくなったしねえ」と淋しそうに仰言ったのが印象的で、「このうえ江戸料理までなくなった日本で、私は生きてたいとは思いませんねえ」と言ったのも正直な気持ちである。
松岡さんと会うと、必ず日本と西洋の文化の違いに話が及ぶが、今日は私のほうからこういう質問をしてみた。「日本語では『お変わりございませんか?』という挨拶をよくしますが、それに相当する英語ってあります?」「ただ単にAre you well ?かなあ」と松岡さん。「でもそれには変わるというコトバが入ってませんよね。日本人は変わらぬことを是とした精神があって、このコトバはそれを象徴するように思うんですけど」と私。「確かにそうかも。西洋はどんどん変わることはいいことだという風潮が確かにあるわね」と松岡さん。
どうも変わることが苦手らしい日本人が今もの凄く大きな変わり目を迎えていることだけは間違いない。
科学技術経済万能主義を脱却して自然回帰生命尊重の流れに切り替わるのか、それとも少数精鋭の科学技術経済大国をあくまで目指すのか、いずれにしても国民の大多数が今までと同じような物質的豊かさを享受することはまず無理とみたほうがいいだろう。
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コメント (6)
この大津波が起きた次の日に、京都で乾物屋の三代目の若ダンと話しをする機会がありまして、来年のわかめ(今年のは去年一年寝かせてあるのがあるから、いけるらしいです)、どうしようと途方に暮れてはりました。
流されたのか、三陸の取引業者と連絡も取れないのだとか。
京都人は、筍にまとわり付くねっとりわかめが、好みなんだとか。ですから、鳴門のしゃきしゃきわかめでは、代わりが利かないのでしょうね。
今年来春と、若竹煮を京都の料理屋で食べるお客さんは、ひとしきりわかめの説明をレクチャーされる事となるのでありましょうか。
投稿者 毎晩晩酌 : 2011年03月29日 22:26
私は関西の人間なので石原知事の都制に直接被害を受けているわけでは無いですが、あれだけ無責任な暴言を吐き、自身は戦争経験も無く、空襲にもあっていないのに知ったかぶりをして好戦的に核武装を唱える、これは青嵐会のときからでしたが、こんな男をよく再選されるものだと思ってました。あの年代は戦争ごっこで育ってますから、戦火で苦しむ人間の事はわからない。戦争は遊び感覚と威嚇としかとらえていないのですよ。
福島原発で一番恩恵を受けているのは東京、東京の消防自動車の一台や二台壊れても怒鳴りこむ筋合いは無いと思いますが。確かに恫喝まがいの事を言って東京消防庁の職員を福島に行かせたのは良いとは言えません。しかし、それに文句を言うなら、それまでに知事自身が土下座をしても消防庁の職員に「東京を救うために行って欲しい」と頼むべきでしょう。
花見を取りやめたのは被災地の方を慮ってというより、自身が楽しめないからでしょう。東北の地道に働いて来られた方達が被災されているのに「天罰だ」と言ったかたですから。
投稿者 お : 2011年03月29日 22:34
本当に石原都知事には煮え湯をのまされたような気持ちにさせられます。今回立候補しないと報道されていたときやれやれと思いましたが、出馬宣言からすぐに今回の震災があり、天も出馬に反対しているにでは?と思いたくなるくらいです。
今までこの人が東京都知事であるのがとても忌々しく、反対意見もあるかもしれませんが、小泉総理が郵政を破壊したのもとても忌々しく思います。郵政の問題は、人件費が嵩むことが一番の問題だったと思うのですが、民間で葉書も手紙も今の料金で黒字にできない事は明白なので絶対に郵政民営は反対でした。小泉元総理にはぶっ壊したことをきちんと修復して欲しいです。
過ぎたことを言っても始まりませんが、次の都知事は石原都知事と東国原だけにはなって欲しくないです。前回は祈りも空しく都知事が石原で何故?都民は阿呆か?と思いました。〔マスコミうけで実質はないから〕。誰がなっても難しいことにこの二人がなると、実質できることがあるの?と。他の人ができることがあるのか今の情報ではわかりませけど、まだましではないかと思っています。
投稿者 nao : 2011年03月29日 23:30
追伸・私は東京都民です。コメントを送った後、誤解を受ける可能性もあるのかと思いましたので付け加えさせてください。
投稿者 nao : 2011年03月29日 23:57
以前上岡龍太郎さんがおっしゃっていましたが、日本語には励ます言葉がないんですよね。英語の「GOOD JOB」や「GOOD LOOKING」に当たる言葉が。「頑張れ」は頑張ってる人に対して使う言葉ではないし。それと「ノブレスオブリージュ」という考え方も。
投稿者 月明かり : 2011年03月30日 20:17
できることなら物質的豊かさを追求する生活から脱却して、このまま、江戸時代の必要最低限で心豊かな生活環境に戻ってほしいものです。
投稿者 hirotan : 2011年03月30日 22:26