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2011年03月17日

情報過多のビョーキ

今日予定されていた新潮社の会食はさすがに延期となって、今日は丸1日家で過ごした。昨日電話で話した小林姐さんは、「いや~製紙会社の工場が東北方面に集中してるので、紙の入手が非常に困難になってて、5月以降はもう本が出ないかもしれませんよ~」と暗い声。この手の話はツイッター等でも以前から語られているようだし、ほかにも日本経済の退潮によって他の業種と同様に出版界が被る打撃は計り知れないものと想像され、私自身、正直いって今後も作家活動を通して経済基盤が維持できるかどうか、先は皆目見えないのである。
しかし、そうはいっても現在書きかけの短編が2本あって、それらは紙面で読者のもとに届くかどうかもわからないのに、いったん始まった物語は必ず完結を要求するため、地震以来ずっと書き続けていて、たぶんかりに余命1ト月と宣告されても、書きかけの小説があれば、それが人に読まれるかどうかなんて関係なく書き続けてしまうのが、私のような商売をしてる人間に共通する一種の病ともいえるのだろう。ただし、その病のおかげで、この地震の件ではあまり病まなくて済んでるのかもしれない。
地震以来、今日初めて東京のBFから電話があって、なんだかとっても参っている様子だったので、励ますのにえらい長電話をして、停電でようやく切れたが、男女を問わず東京にいる友人は、この人がこんなに参っちゃうのか!!とビックリさせられることが多いのである。それはどうも町の雰囲気やギョーカイ人特有の情報量の多さに起因するのかもしれない。原発事故関連でもツイッター等ではさまざまな情報が流れているようで、情報というものはそれを知って自分が何らかの対処ができればいいが、原子炉を冷却する必要があってもその方法がなかなか巧くいかないことを逐一知ったところで、私たちには何もできないから、そんなものをずっと追っかけて読んでいたら、精神が参るのは当然だろうと思う。
身の周りで、なんだか参っちゃってる人や、すでに関西へ移住しちゃった人には、外国人との太いパイプを持っているという共通点もみられ、どうも海外の核恐怖症みたいなものが伝染してるのかもしれないと思ったりもする。今日たまたま管理人さんと話しているときにお会いした同マンションの住人の方は、外資系企業にお勤めで、親会社が西日本に移住を奨励して資金を援助するとまで言われたそうで「いくらなんでも、まだそこまではね~」と笑いながら冷静に仰言っていた。管理人さんもその方も、このマンションですれ違う方々いずれも別に浮き足立っている様子はなく、皆さんおっとりと挨拶をなさるし、近所のスーパーも品揃えがそこそこにあって殺気立ってはいないので、私はここに住んで執筆を続けている限り、心はそんなに揺れずに済むのである。
 もっとも今朝のニュースで北澤防衛省長官が「今日がヤマです」と口を滑らせた件はさすがに気になっていて、放水車の水が届いて少しは冷めたのかどうか、明日明後日のニュースはとても気になるところだ。
茨城の大洗に住む旧友とは先日やっと連絡がつき、今日の冷え込みを心配してメールしたところ、電気が通って井戸もあるので暮らしはなんとかなってるし、むしろ福島や宮城にの方々におにぎりでも届けたい気がするくらいだけれど、原発情報が錯綜してるので本当のところを教えてほしいといわれた。事態は予断が許されず、もし冷却に失敗したら、半径百キロは離れたほうがいいはずで、微妙な位置にあるから、孫だけでも避難させたほうがいいかもしれないと返信し、こちらでも迎える用意を整えたほうがいいように思われた。不思議なもので、私も世田谷の三軒茶屋に住んでいたら、さっさと京都に行っちゃったのかもしれないのだけれど、この大宮の町に住んでいたら、福島に助けに行くことまではできないけれど、逃げだすよりも避難する人びとを迎えることを先に考えてしまうのである。
 停電中は執筆できないが、出版界の先行き不透明な中では、さすがに新作執筆のための資料に目を通す気にもなれず、読みそこねていたコリン・デクスターのモース警部シリーズ最終作「悔恨の日」を読みだした。小説はひとつの別世界であり、私のような人間は書いても読んでも心が安まるので、昼間の停電はやはり読書に限ると思われた。こんな時に宣伝するのもなんだが、地震直後に刊行された『そろそろ旅に』の文庫本はひょっとしたら私の最後の本になるかもしれません。講談社では売上げの一部を義援金に回すことが決定しました。


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コメント (5)


いつもブログの更新を楽しみにしている者です。
初めてコメントさせていただきます。

昨日池袋に出かけてリブロで今朝子センセイの
「そろそろ旅に」を購入させていただきました。

昼間の池袋は、平常よりも人が少ないような印象でした。

今日は(も)会社には行かないので、「そろそろ旅に」を
読んで過ごそうかと思っています。

今朝子先生の作品、大好きです。

寒くなったり暖かくなったりの毎日ですが
お身体ご自愛下さい。

投稿者 はつこ : 2011年03月18日 07:53

毎日ブログを拝読させていただいています。「仲蔵狂乱」以来
松井今朝子ファンです。
今日読んでいて関西に移住した人の話がありましたが
大賛成です。どんどん移住してください。
そして落ち着いたら二度と戻らないようにしてほしいです。
空いた所に被災者を迎えたらどうでしょうか。
少し感情的になってごめんなさい。

投稿者 松尾孝信 : 2011年03月18日 09:48

「情報過多のビョーキ」になっちゃう原因の第一は、政府の情報操作と事実隠蔽だと思います。
「いたずらに不安を煽りたてる」情報と、「どうしても知らせておかなければならない」情報の、取捨選択の判断基準が、
国(政府・官僚・東電・NHK)と私(私の周りの人間)では違うのだと、今回の大災害でつくづく思いました。
チェルノブイリでの大災害を経験した欧州、スリーマイル島事故を経験したアメリカと、
「原発神話」を信じきっていた日本の反応が違うのは当たり前。
日本の宝である子供たち(特に乳幼児・妊婦)だけでも、守りたいです。

投稿者 waysea : 2011年03月18日 17:24

情報過多、ありますね。
自宅でTVばかり見ていると気が滅入ります。
で、会社で毎日対策会議と被災顧客台帳作り。
現地からのネットによる情報提供の速さに驚きます。

昨日は会社で義援金に募金し、明日は帰宅できなく
なった仙台の知人のためにお弁当作り。

週明けには遊休資産のPCを避難所に供出しようと
思っています。

まずは、身近なできることから初めよう。

「ガンバレ東北、ガンバレ日本!」

投稿者 モイラ : 2011年03月18日 21:10

原子炉による放射線被害のことは、心配ですが避難や事故・爆発以外のことは被害を最小限にとどまらせるように尽力している方々を信じて祈る以外に私には方法がありません。 
 それよりも今避難していたり孤立している人たちに必要な物資が届くことが大切に思います。 
 今朝子様のブログにこんなことを言うのは変かもしれませんが、今朝子様が何か知っているかもしれないと思い投稿させてもらいます。 
 新聞取材で薬・水・食べ物など足りないという記事の合ったところにはもう一度取材に行って物資を差し入れているのでしょうか?交通規制にあって孤立しているところにマスコミが入っていくなら当然必要と思われるものを同時に持って行き、足りないと取材したものを当然持っていっているのでしょうか。 
 救援支援を行っているところと連携をとって、取材に入らない人口の少ないところやヘリでないと行けないところにも支援がいくように誰かに指揮を執って欲しいです。 
 被災地では電気が使えず通信手段がほぼないと思いますので取材に訪れるマスコミにもっと役に立つよう動いて欲しいのです。

投稿者 nao : 2011年03月18日 21:19

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