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2011年03月09日
フィッシュ&チップス
シアター・コクーンで井上ひさし作「日本人のへそ」を見た帰りにドウ・マーゴで食事。
井上氏の舞台デビューを飾ったこの作品は戯曲を読んだばかりで見るのは今回が初めてだが、読んで想像していた以上に面白く見られたのは俳優陣の奮闘もさることながら、栗山民也の演出と、作曲演奏のみならず役まで演じる小曽根真の活躍に与るところが大きい。駄洒落をふんだんに盛り込んだコトバの洪水と、ドンデン返しの連続という、初期井上作品の2大特徴は、へたをするとそれに振りまわされて何が何だかわからない狂騒的なステージを拵えあげてしまう。初演時ならそれはそれで、時代環境にも助けられてストレートに舞台の熱気が伝わるのだけれど、時を経て上演される場合は戯曲そのものが時代のズレを感じさせることにもなりかねない。栗山演出はその2大特徴をねじ伏せた上で、今日に何を通じさせるかのプランニングにしっかり則った非常にわかりやすい舞台を見せてくれた。舞台は劇中劇として展開し、繰り返されるドンデン返しによって一体どこからどこまでが本当の劇中劇なのかわからなくなるような展開なのだが、栗山演出はその点にあまり重きを置かず、タイトルの「日本人のへそ」即ち日本人を特徴づけるものは何かというテーマを丁寧に扱っている。それによって、天皇制の問題やホモソーシャルな社会のありよう、日本型の権力者像と闇のつながり、地方格差等々今にもつながる社会風刺が笑いのうちにくっきりと浮かびあがってくる。ただし初期の井上作品は後年ほど社会的なテーマをストレートに打ち出すことはなく、徹底的に洒落のめし、笑いのめしていくまさに戯作者的な作風であった。ある意味でそのほうが却ってカゲキな風刺もできたことを実証する今回の上演だったともいえる。
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