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2007年10月27日

鶏手羽の唐揚げ

この季節の台風はひょっとして元寇以来か!とビックリしつつ、タクシーも呼べずに暴風雨の中をずぶ濡れになって向かった先は青山の銕仙会能楽堂。「中村京蔵舞踊の夕べ」は心配されたよりもお客さんが沢山入っていて、こんな日でも足を運ばれるご贔屓はやはり有り難いものである。今度の公演は京蔵がそうしたご贔屓を久々に直球勝負で満足させた好企画といえるかもしれない。
「海人(あま)二題」というタイトル通り、能の「海人」に取材した地唄舞の「珠取(たまとり)海女」と、謡曲・義太夫掛け合いによる「志度之浦別珠取(しどのうらわかれのたまとり)」の上演で、いくらなんでも装置のない能舞台で同じ役者が同じ題材で舞うのは全く気が変わらないのではないかという点がまず懸念されたが、衣裳鬘等はもちろん、曲調や見どころも巧くつかないように(かぶらないように)拵えられていて、京蔵もそれぞれにおいて持ち味を存分に発揮した。
地唄の「珠取海女」は楳茂都流の振付で、この流派はもともと歌舞伎と縁があるだけに、上方舞の中では劇的な振付なのだろうが、京蔵は前半をわりあい地唄舞らしく無表情でスタティックに舞い、「ひとつの利剣を抜き持って」以下のくだりからぐっと表情豊かにドラマチックに舞い込んで、いかにも役者らしい地唄舞を披露し、これはこれでひとつの行き方だと納得させた。
竜宮から珠を取り返した海女が「乳の下を掻き切り珠を押し込み」というくだりが地唄舞のドラマチックな箇所なのだが、「志度之浦ー」では敢えてその部分の歌詞を省き、ダイナミックな振付と演奏のみでドラマ性を打ち出したのが私は頗る意外だったものの、そのことによって前者と全くつかない舞踊劇に仕上がった点は評価したい。
ワキの房前大臣を登場させて親子の再会を見せたのはいささかくさいメロドラマ風ではあるけれど、これまた「情の役者」京蔵にふさわしい見せ場だったことは認めてしかるべきだろう。ふつうならシテが退場すべき橋懸かりにワキが消えたあと、亡霊であるはずの海女が舞台に残ってどのように舞い納めるつもりなのかが気になったが、「見えつ隠れつ、なりにけり」という三味線入りの地謡で舞台奥に摺り足を運びつつ、しだいに照明を落として消えていく姿は美しく、印象深い幕切れだった。
 先日お茶の稽古で「夜想」編集長の今野氏をお誘いしたので、会場で今野氏とお目にかかれたのは当然だし、京蔵ファンになった校正者の渋谷氏と会えたのも不思議はないけれど、クロワッサン副編集長の船山さんにまで会えたのは驚きで、船山さんは「前にうちの雑誌で着物の特集をしたときに、京蔵さんにお話を伺ったんですよ」とのこと。世間は狭い。それよりもっと驚いたのはつい先日アンケートにお答えしたばかりのトーハン広報室においでの十松氏がご挨拶にいらして「僕は京蔵さんの歌舞研の後輩でして」と仰言ったので、またまた世間は狭い!と思ったのでした。「踊るビジュアル」こと吉村流の名取りでもあり翻訳家高見浩夫人で自身も翻訳家の安達紫帆さんとも久々にご一緒して、帰りに近所の鶏料理店で食事をした。風雨がまだ相当きつかったので、とにかく入っちゃおうと飛び込んだ店だが、名物料理の鶏手羽揚げは結構いけました。


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コメント (2)


初めてメールを差し上げます。
「珠取り」、「家、家にあらず」の大詰で沢之丞が踊ったのが印象に残ってます。当代一の役者のあでやかな舞踊が披露される中、この後、どんなどんでん返しが待っているのか、ワクワク感とコワい気持ちが交錯して、緊迫感で読みましたが、現実に見る機会を見逃して、残念です。瑞江がとても魅力的で、その後、どんな人生を歩んだか、続編を書いて頂きたく思いました。「非道、行ずべからず」にも登場すると、うれしいのですが……。
「大江戸亀奉行日記」もとても楽しく、亀の顔形や甲羅の模様の違いなど、もっと知りたくなりましたが、個人的に一番受けたのは、<石亀慎太郎>。父方の祖母の旧姓が「石亀」で、豆腐屋だったので、子供の頃は(豆腐屋なのに固い名前だなあ)と思っていました。
私も、いつもQPを見ていますが、実際に作るのはたまになので、参考になります。食べる事には、しつこいもので、前から気になっていた<もっちり豆腐>は、先日渋谷に行った折に買って満足でした。久々の東横のれん街はずいぶんグレードアップして、野呂本店まであったのは驚きです。
今は「銀座開化おもがけ草子」の宗八郎が気に入っており、百数十年前の銀座が少しずつ立体的に立ち上がって来て、地図と照らし合わせながら、宗八郎と共に文明開化を驚く楽しさを味わっています。

投稿者 ウサコの母 : 2007年10月29日 21:00

>瑞江がとても魅力的で、その後、どんな人生を歩んだか、続編を書いて頂きたく思いました。「非道、行ずべからず」にも登場すると、うれしいのですが……。

 残念ながら「非道」には登場しませんが「小説すばる」の正月号から連載を始める「道絶えずば、また」は「非道」の続編で、ここに年取った彼女を登場させる予定です。

投稿者 今朝子 : 2007年10月30日 00:59

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