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2007年07月30日

フランス大使館

 「フランス大使館から昼食会にご招待されましたけど……」と幻冬舎のヒメから連絡が入ったときは、ホント今年はいったい何が起きるかわかったもんじゃない!という気がしたが、つい受諾したのは料理の味に心惹かれたからで、イギリス大使館なら断ってたかもしれません(笑)。
 期待されたその料理は全体にベトナム系フランス料理といったエスニックな味わいで、前菜とスープをかねた蟹肉のルバーブ巻き(?)に始まり、フグかカワハギみたいな白身魚のソテー、次にチーズが山盛り出てきて、最後のデザートがエッグノックみたいなよくわからないもので、最初から最後まで、美味しいかどうかはともかく、どれ一つとして今まで似たものですら食べたことがなかったのに感心した。さすがにフランス大使館である。
 で、一体なぜ私が招かれたのかというと、バルベ・シュローデルというあんまり聞かない監督が江戸川乱歩の『淫獣』を映画化するにあたって、日本の芸者を登場させるシーンがあるので、参考のために色んな人の意見を聞きたいとのことで、文化補佐官が朝日放送の社長に相談したら、たまたま受賞時期と重なったので吉原に詳しい人として私の名前が出たようなのだが、撮影スタッフと会って話を聞くと舞台は京都の祇園なのだそうで、どうも吉原と祇園の違いもわかってるのかどうか疑わしい人びとなのだった。 で、10月に撮影開始といいながら、キャスティングもまだほとんど固まってないようで、フランス語がひと通りできる男女俳優を捜しているとのことだったので、ソルボンヌ大出の長塚京三とかどうなんでしょう?と、こちらが勝手に挙げる名前をどんどんメモしていくのである。芸者の演技指導ができる人は誰かいませんかと訊かれ、祇園が舞台なら大昔にアメリカ映画にも出演したてる子さんとか、『さゆり』で有名になった岩崎峰子さんとか、いろいろいらっしゃいますけどと答えてメモされ、ほかにも東京で日本庭園を撮影できる場所はないかと訊かれてまたいろいろと挙げながら、それにしても私はたまたま祇園町で育ったし、松竹という興行会社に勤めて俳優や撮影場所とかもそこそこ知ってたからいいようなものの、ただ吉原を舞台に時代小説を書いたというだけの人間がこんな席に呼ばれたらどうすんだろう!と驚くほどアバウトな人選によるご招待だったのだ。ほかの日本人招待客は堂本尚郎画伯夫妻と日本文化をいろいろと海外に紹介なさってる相原さんという女性で、長卓にバルベ監督以下撮影スタッフ大勢とル・リデック大使夫妻が座って一斉にしゃべり出して同時通訳が入る中での昼食会はなんとも疲れる!としかいいようのないものだった。
 食後は応接室でドリンクや葉巻が振る舞われ、ようやく少し落ち着いた雰囲気の中で文化補佐官の田村さんという女性とゆっくり話をしたら、「面白いでしょ、ここの大使は映画関係者が来たら誰でも歓待して、こうした協力を惜しまないんですよ」とのこと。大使夫妻は日本語もそこそこ堪能だし、とても気さくな感じでイイ人そうな人たちなので、映画の公開が予定されてる来年秋には京都を舞台にした短編アンソロジーを日仏同時出版する話が私に来ていると伝えたら、その企画書を早くこちらにも出してくれと言われて、協力を惜しまない態度を示されたのであった。さすがに文化を大切にするお国柄というべきか。
 ところで田村補佐官もまた京都の出身だというので何かと話をしながら、思いきって「私は聖母学院の出身で、小学校からフランス語を習ってたんですけど」と申しあげたら「ええっ!私も聖母なんですよ」と答えられたのでさすがに驚いてしまった。
 わが母校の聖母学院は1学年120人くらいしかいない小規模なフランス系ミッションスクールだったから、出身者にめぐり会うことは滅多とないのに、なんと初めて行ったフランス大使館でバッタリ会うとは!ちなみ私は小学校のころ、フランス語の授業を得意科目にしていて、人生で初めてもらった賞は「仏国領事館賞」というものだから、フランスにはふしぎと縁がある。てなわけで『幕末あどれさん』というようなタイトルの時代小説も出来たのであります。
 写真はパーティに集った面々と大使館のスタッフで、私の後ろに立つ水色のシャツを着た男性がバルベ監督、顔がマルコヴィッチそっくりなのがおかしかった。ネクタイを締めてる大柄の男性が大使で、茶色い洋服の大柄な女性が大使婦人。


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コメント (6)


はじめまして。直木賞おめでとうございます。
御本いつも読ませて頂いております。
こちらもよく覗いているのですがコメントするつもりはなかったのですが..
Barbet Schroederさんという綴りでよければ 
バーベット・シュローダー(バルベ・シュローデル)
90年ジェレミー・アイアンズが主演男優賞を総なめにした
運命の逆転やメリル・ストリープ、リーアム・ニーソン出演
判決前夜の監督さんではないでしょうか。
乱歩の映画化をされるのですか。
出演者が日本人でフランス語で撮影となると結局
ほかのアジア圏の俳優に決まってしまうかも?ですね
Gacktさんなんかいいかも 仏語話されるそうなので。
耽美系ですし演技経験ありますし
女性だとどなたがいいんでしょうね。
いずれにしろ久々の監督作は楽しみです。
今朝子様には過労でお体をこわされませんように。
ではでは

投稿者 阿部麻理 : 2007年08月02日 02:23

>運命の逆転やメリル・ストリープ、リーアム・ニーソン出演
判決前夜の監督さんではないでしょうか。

エエッ、そうだったんだ!私も『運命の逆転』は観てますが、全く気づきませんでした。

>出演者が日本人でフランス語で撮影となると結局
ほかのアジア圏の俳優に決まってしまうかも?

フランス人の男優がひとりで、あとは全員日本人で撮りたいそうですが、話を聞いてるとあまりにも準備不足で大丈夫かなあ?という気がしました。Gacktが仏語を話せるということも、知っていれば教えてあげられたのにと残念です。女優は宮沢りえちゃんにアプローチして断られたそうで、お引き受けになりそうな方の名前は秘密でした。

投稿者 今朝子 : 2007年08月02日 08:37

 受賞おめでとうございます。タイトル通り、吉原の良き
 ナビゲーションですね。私は戦後昭和25年〜33年まで
 の吉原しか知りませんが、それでもあの社会独特の用語、
 隠語、(かすかに風習も・・)は残存しておりました。
 ほんの一例ですが「鼠鳴き」など・・。
 尚、小生、古典落語の愛好者なもので、沢山の「廓噺」
 (「文七」「お直し」「幾代餅」「付き馬」「突き落とし」
  「大坂屋花鳥」「お茶汲み」等々キリがありませんが)
 と比較しながら御著を拝読させて頂くと興味倍増です。
 落語はイメージの世界ですから、視覚で楽しむなら五社
 監督の「吉原炎上」なんかよく出来た作品ですよね。
 歌舞伎は御専門ですから控えさせて頂きます。
 久し振りに良い作品を読ませて頂きました。深謝。  「 

投稿者 戸鹿里 次(とがりゆずる) : 2007年08月03日 10:38

ははあ。私の名前は思い出してくれなかったのねえ。冷たいわねえ。フランス料理に目がくらんでたのねえ。別にいいけど。

投稿者 中村まり子 : 2007年08月11日 19:04

中村まり子さんへ

もちろん真っ先に想いだしましたとも!で、コリーヌ・カンタン女史には貴方の活動をいろいろ報告したりしてます。けど、今度の映画で捜してる女優陣は祇園の芸者の役だというから名前を挙げなかったんですよ。前に時代劇とかは絶対にやりたくない!って言ってたじゃない。

投稿者 今朝子 : 2007年08月11日 20:51

なるほど。実は先日禁を破って時代劇?の映画に出てしまいました。悔しいから題名は教えない。祇園の芸者は無理だ・・・だが、何とか婆あ?とかないのかな。準備不足なのではなく、それはフランス人だからです。関係ないけど私は先日ロシア大使館に招かれて、昼間からウォッカを飲んだ!

投稿者 中村まり子 : 2007年08月12日 16:21

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