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2007年07月11日
鰹の手こね寿司
QPで見た料理。鰹は薄切りにして生姜汁・醤油・味醂を合わせたタレに浸け込んでおく。すし飯に新生姜と大葉の千切りをたっぷり混ぜ込んで鰹を加え、仕上げに切りごまを振る。すし酢にスダチを加えるのがポイント。夏向きの爽やかなお寿司でとてもおいしい。オススメ!
お茶の稽古の帰りに駅張りポスターに目が行って、松方弘樹主演で「素浪人月影兵庫」のTVシリーズが再開するのを知った。顔が親父そっくり!といっても若い方はピンと来ないだろうが、その昔、私が子どもの頃には松方の実父近衛十四郎主演で大ヒットしたシリーズだ。当時好きでよく見ていたが、とてもノーテンキな時代劇だったので、元PHPの熊谷氏に「あれの原作者は南條範夫ですよ」と教えられて、「ええっ、ウッソー!」と叫んでしまったくらいゼンゼン結びつかなかったのである。
南條範夫の名を初めて知ったのは先々代尾上松緑と先代辰之助共演の『燈台鬼』を見たときで、こんなものを歌舞伎でやるなんて信じられない!メチャクチャ残酷で暗ーい物語だったのだけれど、それがきっかけで南條作品にはいくつか目を通している。司馬遼太郎の歴史物を除いて、私はいわゆる時代小説をほとんど読んでいないので、例外的にご縁があるほうなのだ。
氏の傑作『被虐の系譜』は「武士道残酷物語」というタイトルで映画化されてもいるが、今どきの時代劇時代小説ファンにはあまり馴染みのない作品だと思う。私は多少SMっ気があるので(笑)近所の古本屋でたまたまこれを見つけたときに「被虐」の文字に惹かれて購読し、以来、こういう作品が書けるのなら、時代小説家になるのも悪くはないと思うようになった。つまりはひそかに私淑していたのだから、南條先生とお呼びするべきなのかもしれないけれど、残念ながら接触の機会がなかったので、敢えてそうはしません。
『被虐の系譜』は一応現代物のスタイルで第2次大戦後の日本を舞台にしている。主人公がある旧家の古文書を丹念に探るうちに、その家の歴代当主が自分の仕える主君に対して被虐的なまでの忠誠を尽くしていたことが次第にわかっていくというストーリーで、ほぼ全編にわたって当主の「日記」が引用されており、もちろんそれは偽作された文献ながら、非常に巧妙な擬古文なので、ひょっとしたら本当にこんな「日記」が旧家から出てきたのかもしれないと思わせるところがミソである。私は『奴の小万と呼ばれた女』の中でそのやり方を実践してみたが、「あれは本物の文献じゃないんですか!」と仰言った方もあったので内心シメシメだった(笑)。
ところで主君に対して被虐的なまでの忠誠を尽くす代々の当主はどんどん時代が下がって、ついには「天皇陛下」への忠誠を誓って子どもたちを嬉々として戦死させてしまう父親となる。南條範夫は当時の日本人のメンタリティーを一種カリカチュアライズしたメタファーとして『被虐の系譜』を書き上げた。それが戦中戦後を生きた物書きの責任の取り方でもあったのだろうと思う。時代小説は日本社会のありようや日本人のメンタリティーを批評する道具として有効に使えることを、私はこの作品から学んだのであります。
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