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2007年03月02日

ヒステリア

世田谷シアター・トラムで『ヒステリア』を観る前に近所の中華レストランで食事。
 招待日は旅行中だったから普通ならパスするところを、何かしら匂うものがあって、招待を今日に変更してもらったのだが、まず劇場に入ってビックリしたのは立ち見が出ていたこと!いくら小劇場公演とはいえ、最近この手の翻訳劇で立ち見が出るのは珍しいし、楽日間近で業界人が結構来ていたから(私の横は宮本亜門だった)よほど評判がいいのだろう。で、それなりの期待に応えたユニークでなかなか面白い舞台だったといえる。
  精神分析学の創始者フロイドの晩年に彼の元をシュールリアリズムの大家サルバドール・ダリ夫妻が訪れたという史実を下敷きにした芝居で、ダリ自身も登場するが、すべては死を目前にしたフロイドの生々しい幻覚として展開される。かつてフロイドはある女性の精神分析を通じて彼女が幼児期に父親から性的虐待を受けていた事実を発見しながらも後にそれを否定して、それは彼女の性的願望だったという解釈に帰着した。幻覚にあらわれた女性はそうしたフロイドの変節を追及し、彼の父親や彼自身の内側にも同様に歪んだ性欲が潜んでいることを暴き立てる。いっぽう人間の潜在意識を具現化した絵画を描いたつもりのダリはフロイドに批評を仰いだ結果、その絵画には潜在意識よりむしろ意識的な作意のみが見えると言われて「シュールリアリズムは死んだ」と認めざるを得なくなる。最晩年のフロイドの精神をさらに大きく揺さぶったのはナチによるユダヤ人惨禍の現実でもあった。
 いずれも深刻なテーマであるにもかかわらず、舞台は意外と軽快に運ばれて前半はまるでスラプスティック・コメディのようにも見えるのがこの芝居のユニークなところだろう。串田和美のフロイドは好々爺然として妙に和める感じだし、幻覚にあらわれる女性は荻野目慶子ならではの妖しさとエキセントリックな演技に目を奪われる。中でも奇人ダリを演じた白井晃は実にみごとな怪演で大いに笑わせてくれた。白井は演出もかねており、照明、装置、衣裳等に細やかな配慮を見せ、ラスト近くのもろに幻想的なシーンでも達者な手腕を発揮している。


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