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2006年06月30日
ザルそば
新国立劇場で井上ひさしの新作「夢の痂(かさぶた)」を見て、家に帰ってからザルそばを食べたのは食欲がイマイチだったのと、劇中にザルそばという言葉が何度も出てきたから出あります(笑)。
テーマとテーゼがはっきりしてて、シーンやセリフも少しずつ頭に浮かんでメモ用紙に書き込んであるのに、でも実際に書きだすと話が転がらないことってあるんですよねえ、と、ご同情申しあげるしかない今日の芝居である。近年の井上さんはこの手がよくあるが、お歳を考えたら責められない気もする。
天皇の責任問題を追究した昭和3部作の最終編で、戦後の御巡幸を背景に、日本語の文法を用いて日本人論を展開しようとしたのは実に井上さんらしいアプローチだし、主語、述語、目的語の語順が問題になる西洋語や中国語に対して日本語は助詞「てにをは」が非常に重要な意味を持つという論の滑り出しでは少し期待したのだが、結局のところ日本語は主語が隠れてしまうというありきたりの論に展開して、天皇が戦争責任を明確にすれば日本人のその後が変わったはずだという、これまた古めかしくも楽天的な結末になってしまうのは世代の問題もあるのだろう。今や「卒業旅行」でプレスリーの生地を訪ねるのが何より嬉しいというバカ丸だしの国家元首を抱えてしまった国民のひとりとしては、天皇の戦争責任もさることながら、楽天的な世代がこの国に及ぼした責任を追及したい気分である。
ともあれ三田和代、角野卓造をはじめ役者陣はいずれも好演だし、装置やクルトワイル風の音楽もいい感じで、そこそこ面白く見られた舞台だったから、公演失敗の責任は誰も追求されずに済むのであろう。
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