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2006年05月05日
幕の内弁当
幻冬舎のヒメと明治座の「石川さゆり」公演を見て幕間に食事。これにはワケがあります(笑)。
「叔父が『石川さゆり公演』の演出をしていて招待券を送って来たのですが一緒に如何ですか」というメールをヒメから頂戴したときは?が飛びまくったのであった。なにせヒメの父上はお医者さまで(しかも大学の研究医)小学生のヒメに大江健三郎を読ましたというスゴイ人!のイメージが定着していたから、石川さゆりがどうしても結びつかなかったのであるが、母方の叔父上が商業演劇界でつとに知られた金子良次氏だというのを今回知って、またまた驚いてしまったのであります。
で、私は正直いうと、やはり石川さゆりのほうに興味があったのでした。この演歌界屈指の歌手が一時事務所の金銭トラブルか何かで表舞台から姿を消していたころは逸材だけに勿体ない気がしていて、一昨年あたりからようやく復帰できたのを喜ばしく思っており、今回せっかくの機会だからあの「天城越え」をナマで聴いてみたくなったのである。「天城越え」の歌がどうしても浮かんでこないという方には是非一度ちゃんと聴いてみられることをオススメしたい。とにかく物凄い歌詞で私は<演歌の純ブンガク>と読んでおります(笑)。
公演はお定まりの二部構成で、第一部がなかにし礼原作金子良次脚本演出の芝居「長崎ぶらぶら節」。これが意外に良かったのは簡潔スピーディーな脚本演出もさることながら、石川さゆり本人の演技力に拠るところが実に大きい。歌手で演技の巧い人は少なくないし、ことに石川さゆりの演歌は芝居がかった歌なので、そこそこの演技力はあるはずだと思っては見たのだが、想像以上に舞台勘が良くてコミカルな味を発揮するのはオドロキだった。演歌にイメージされるべたついた自己陶酔的な雰囲気は微塵も感じさせない演技であり、本人たぶんとても頭がいい、且つ気性がさっぱりしている人なのだろうという好印象を受けた。熊本出身のこの人が長崎芸者の役を演じたという点も企画の勝利だろう。
歌のうまい芸者の役だから劇中でもたっぷり喉を披露してくれたが、これが第二部になると長時間独りで歌いっぱなし、おまけにMCまで巧くやってのけるのだからそのパワフルな多才ぶりに圧倒されてしまう。それにしても、この人の演歌は何曲聴いても演歌特有の常套文句の羅列が非常に少なくいことに改めて気づいた。「転がる石」なんて曲も聴いてビックリだったし、MCを聞いていると本人が非常に自覚的に歌詞にこだわりを持っているのがわかるのだった。演歌界でもこの人と坂本冬美は傑出した存在なのかもしれない。
それでもやはり演歌歌手だからプレゼントコーナーもあって、観客が次々とプレゼントを持って舞台に近づいていくが、これまた定番の花束は皆無!石川さゆり自身が客に訊いて何を持ってきたかを言わせると、図書券!中華饅頭!バナナ!入浴剤!と意表をつかれるものばかりで、石川さゆりファンは相当な変わり者ぞろいであるのか、はたまた演歌ファンのプレゼントってこういうのが主流なのか私にはさっぱりわからないのだった。とにかくオドロキの連続だったとはいえ、ラストは待ってました!「天城越え」の熱唱でめでたく幕を閉じ、私は大満足でヒメに感謝して帰宅したのであります。
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