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2006年05月22日

前進座創立七十五周年記念公演

 演目の一本は滅多に上演されない鶴屋南北作「謎帯一寸徳兵衛」で、これは昔に国立劇場主催公演で孝夫時代の仁左衛門と雀右衛門が演じたのを見ているが、今回の上演はそのときよりもはるかに面白く感じられた。主人公の団七は子持ちの中年でありながら、惚れた女を別の男にさらわれたから代わりによく似た女を妻にして、金に困るとわが娘を売り飛ばし、妻にした女もうるさくなると殺してしまうという超いい加減で身勝手な男だが、ほかにも妻を故郷に残して出奔し誘拐した娘に稼がせて左うちわに暮らす男だとか、惚れた女と遊びたいために自宅から大切な商売道具を持ちだしたあとで大いに困る若旦那とか、主な登場人物のいずれもジコチューぶりを際立たせたコンパクトな台本とスピーディな演出によって、この作品の現代性が明確に打ち出されている。コクーンでこの脚本演出で上演すれば若い観客に大ウケするのではないかと思うほどで、従来は南北の駄作と考えられていたこの芝居を思いきって的を絞ったかたちに上演したのは前進座のお手柄だろう。主人公団七役を演じた嵐圭史が思いのほか好演で、藤川矢之輔を老け役にまわらせたのも正解だった。梅雀は今やお父さんそっくりで、嵐国太郎もお祖父さんにだんだん似てきて、前進座の第三世代は前途洋々を想わせるが、如何せん満員の客席ながら観客に若い人をもっと増やすことが今後この劇団には望まれるように思う。
 もう一本は劇団の重鎮、梅之助のおはこ「魚屋宗五郎」だが、この人もまた今やお父さんの翫右衛門そっくりであるのは驚くほどで、親子三代いわゆる「巧い役者」がここまでそろった一家も珍しい。


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